紙の手形・小切手は、2027年3月31日をもって電子交換所での交換が廃止されます。
また、2026年1月1日には取適法が施行され、対象取引での手形払いがすでに禁止されています。
この二つの期限を混同すると、必要な対応が遅れます。
経理担当者や、取引先から手形を受け取っている事業者にとって、いつまでに何を確認すればよいかは切実な問題です。
本記事では、制度上の廃止時期と実務上の締め切りの違い、受取手形への影響、でんさいや銀行振込への移行手順を、公的機関の発表に基づいて整理しています。
手形廃止はいつ?2026年度末までのスケジュール
手形廃止には、取適法による支払い規制と、全国銀行協会による交換廃止という、根拠の異なる二つの制度が関係しています。
対象取引も施行時期も別々に定められているため、片方だけを確認していると、自社が対応すべき時期を見誤ります。
「交換が廃止される=すべての手形が無効になる」わけではありません。
廃止されるのは電子交換所を介した交換の仕組みであり、手形そのものの法的効力とは別の話です。この違いを押さえたうえで、以下の各時期を確認してください。
2026年1月1日に取適法が施行され規制が始まった
2026年1月1日、下請法を改正した取適法(中小受託取引適正化法)が施行されました。この法律により、対象となる取引では手形による代金支払いが禁止されています。
対象となるのは、同日以降に発注する製造委託・役務提供委託等のうち、取適法の適用基準(資本金または従業員数)を満たす取引です。
すべての企業間取引で手形が一斉に使えなくなったわけではなく、対象外の取引では引き続き手形を利用できます。
自社の発注・受注が対象取引にあたるかどうかは、取引先の資本金や従業員数、取引の種類によって変わるため、公正取引委員会の資料で個別に確認する必要があります。
2026年9月30日を最終振出期限とする銀行が多い
全国銀行協会が公表する一覧によると、紙の手形・小切手の最終振出期限を設定している金融機関の多くが、2026年9月30日を期限としています。
最終振出期限とは、その日を過ぎて振り出された手形・小切手について、原則として当座勘定からの支払ができなくなる期限を指します。
ただし、期限は金融機関ごとに異なり、まだ期限を公表していない金融機関もあります。
自社が取引する銀行の最終振出期限は、各行の公式サイトまたは全国銀行協会が公開する一覧で確認してください。
2027年3月31日に電子交換所での交換が終了する
全国銀行協会は、電子交換所における手形・小切手の交換廃止時期を2027年3月31日としています。
電子交換所は、金融機関が手形・小切手のイメージデータを送受信して決済を行う仕組みです。
「2026年度末」という表現は、暦年の2026年12月末ではなく、この2027年3月31日を指しています。日付を混同すると準備が遅れるため、区別して覚えておく必要があります。
この日をもって、紙の手形・小切手を従来と同じ方法で決済する仕組みは終了します。
2027年4月以降も手形が一律に使えなくなるわけではない
2027年4月1日から手形・小切手そのものが法律上使えなくなるわけではありません。全国銀行協会も、この点をあらためて注記しています。
電子交換所を介した決済ができなくなるだけで、手形という支払手段自体が消滅するのではないという点は誤解されやすいところです。
一方で、2027年4月以降は郵送などによる相対決済に切り替わるため、金融機関の判断で手形・小切手の取扱いが縮小・終了する可能性があります。
実際に多くの金融機関が、交換廃止を待たずに手形帳の発行終了や取立受付の停止を前倒しで進めています。「廃止=手形法そのものの廃止」ではなく、「決済インフラの終了」だと理解しておくと、対応しやすくなります。
手形廃止後に受取手形や小切手はどうなる?
すでに受け取っている手形や小切手についても、確認すべき点があります。
振出日だけでなく、支払期日や取立受付期限が金融機関ごとに定められているため、受取側が資金化できなくなる事態を避ける必要があります。
紙の手形・小切手の交換が2027年3月31日に終了することを踏まえ、多くの金融機関では2027年4月以降を期日とする手形・小切手の取立受付をすでに停止しています。
振出側だけでなく受取側にも早めの確認が求められます。
受取手形は取引銀行の取立期限を確認する
受け取った手形の支払期日が2027年4月以降になる場合、取引銀行がいつまで取立を受け付けるかを確認しておく必要があります。
多くの金融機関は、電子交換所の交換廃止に先立ち、2027年4月以降を期日とする手形・小切手の取立受付を停止する方針を示しています。
取立受付の終了時期は金融機関によって異なり、交換廃止日より早く縮小しているケースもあります。手形の支払期日だけを見て安心せず、取立受付期限そのものを取引銀行に確認してください。
新たに手形を受け取る場合も、その手形の支払期日が自行の取立受付期間内かどうかを事前に確認する必要があります。銀行の最終振出期限とは異なる基準である点にも注意してください。
小切手も同じ期日をもって交換所での扱いが終わる
紙の小切手も、手形と同じ2027年3月31日をもって電子交換所での交換が終了します。
対象は手形だけではありません。全国銀行協会の発表でも「手形・小切手」として一体で扱われており、小切手を振り出す側にも受け取る側にも同様の対応が求められます。
すでに小切手帳の発行を終了した金融機関もあるため、自行が発行する小切手帳の取扱いや、取引先が振り出す小切手の資金化期限を、それぞれ確認しておく必要があります。
受取手形との違いは対象となる証券の種類だけで、確認すべき手順そのものは共通しています。
約束手形の廃止が進められている理由
約束手形の利用廃止が進められている背景には、受取企業の資金繰り負担、紙の事務負担、決済の電子化という三つの観点があります。
政府は「約束手形・小切手の利用廃止に向けたフォローアップを行う」という方針を示しており、産業界・金融界が連携してこれに対応しています。
古い制度だから単純に廃止するのではなく、企業間取引の負担軽減と決済の効率化を目的とした取り組みです。
長い支払サイトが受取側の資金繰りを圧迫する
手形払いでは、商品やサービスを提供してから実際に現金を受け取るまでの期間が長くなりやすく、その間の資金負担を受取側が負うことになります。
公正取引委員会は、手形払いによって中小受託事業者が現金化までの資金繰りを負担している点を、取適法改正の課題として挙げています。
売上が発生してから現金化するまでの間、受取企業は運転資金を自ら確保しなければなりません。
取適法が対象取引で手形払いを禁止した背景にも、こうした中小事業者の負担があります。電子記録債権やファクタリングであっても、支払期日までに代金相当額を得ることが難しい支払方法は同様に規制対象となり得ます。
紙の管理や取立に手間とコストがかかる
紙の手形では、作成・保管・受渡し・取立といった事務作業がそのつど発生します。
全国銀行協会は、でんさいへの切替えによって印紙代や郵送代の削減、紛失などのリスク削減、事務効率化が図れるとしています。
紙を前提とした管理作業は、振出側・受取側の双方に負担を強います。
振出側は手形の作成や交付の手続きが必要になり、受取側は取立を金融機関に依頼し、入金を確認する作業が発生します。
電子的な決済に切り替えることで、こうした一連の事務作業と関連コストを減らせます。資金繰りではなく事務負担そのものを軽くする点が、この項目の要点です。
政府と金融界が決済の電子化を進めている
政府方針を踏まえ、産業界・金融界が連携して紙の手形・小切手の利用廃止に取り組んでいます。
「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」では、約束手形・小切手の利用廃止に向けたフォローアップを行う方針が示されました。
これを受け、全国銀行協会は自主行動計画を策定し、2026年度末までに電子交換所における交換枚数をゼロにすることを目標として掲げています。
企業間決済全体を紙から電子へ移行させる流れの中で、でんさいやインターネットバンキングによる振込への切替えが促されています。
手形廃止と取適法(旧下請法)の関係
取適法は、旧下請法を改正し2026年1月1日に施行された法律です。すべての手形利用を一律に禁止する制度ではなく、対象取引に限って支払手段の規制を新設した点を押さえておく必要があります。
取適法では、対象取引について手形払いを禁止するとともに、電子記録債権やファクタリングについても支払条件による制限を設けています。
冒頭のスケジュールでは触れなかった、規制の中身を以下で詳しく説明します。
中小受託取引では手形による支払いが禁止された
取適法では、対象となる中小受託取引について、代金の支払手段として手形を用いること自体が禁止されています。
改正前の下請法では、支払サイトが60日を超える手形による支払いを禁止していましたが、改正後は手形払いそのものが禁止対象になりました。
従来のように支払サイトの長さだけを確認すれば足りるわけではなく、手形という支払手段を選ぶこと自体が問題になります。
適用されるのは2026年1月1日以降に発注された対象取引で、資本金基準に加えて従業員数基準(製造委託等は300人、役務提供委託等は100人)でも判断されます。自社の発注・受注がこの基準に該当するかどうかは、公正取引委員会の資料で確認してください。
電子記録債権などの支払手段にも制限がある
取適法では、手形をでんさいなどの電子記録債権に変更すれば無条件に問題がなくなるわけではありません。
改正法では、電子記録債権やファクタリングについても、支払期日までに代金に相当する金銭を得ることが困難な支払方法を禁止しています。
支払手段の名称を手形から電子記録債権に変えるだけでは対応にならず、受取側が期日までに現金化できる条件になっているかどうかが問われます。
振込手数料を中小受託事業者に負担させることも、あわせて禁止されています。
手形廃止後に利用できる主な支払方法
紙の手形から移行する代表的な支払方法として、でんさいと銀行振込があります。
全国銀行協会は、電子的決済サービスとして電子記録債権またはインターネットバンキングによる振込への移行を推進しています。
いずれも紙の手形にあった振出しや取立の手続きが不要になる点が共通しています。取引条件や社内体制を踏まえて、どちらの方法を選ぶか検討してください。
でんさいは電子記録によって債権を管理する
でんさいは、紙の証書を発行せず、電子記録によって債権の発生や譲渡を管理する仕組みです。
でんさいは、全国銀行協会が全額出資する電子債権記録機関「株式会社全銀電子債権ネットワーク」が2013年2月から取り扱っており、2024年度の利用者登録数は約52.3万社に達しています。
取引銀行を通じて発生記録や譲渡記録を行うことで、手形と同様に代金債権を管理できます。支払期日になると自動的に口座間で資金が移動するため、受取側が取立を依頼する手間がありません。
2024年11月からは、インターネットバンキング契約がなくても利用できる「でんさいライト」も提供されています。利用には取引金融機関での申込みが必要で、取引先も同じくでんさいを利用できる状態でなければならない点は確認しておく必要があります。
>> でんさいとは?仕組みや手形・銀行振込との違いをわかりやすく解説
銀行振込は口座間で直接代金を決済する
銀行振込は、支払側から受取側の銀行口座へ、指定した支払日に代金を送金する方法です。
でんさいと異なり、銀行振込は電子記録債権の発生記録を必要とせず、通常の口座間送金として処理されます。
手形のような振出しや取立の手続きが不要で、インターネットバンキングを利用すれば事務処理をさらに簡略化できます。
移行にあたっては、支払日や振込手数料の負担者を取引先と事前に取り決めておく必要があります。取適法の対象取引では、振込手数料を中小受託事業者に負担させることも禁止されているため、条件の設定には注意してください。
手形廃止に向けて企業が準備すること
手形廃止への対応は、取引銀行の期限確認、取引先との協議、社内の移行準備という順番で進めるとまとめやすくなります。
全国銀行協会は、電子化の進め方として「金融機関への相談・申込み」「取引先への案内」「社内の導入準備」という三つの手順を示しています。
これまで説明してきた制度や代替手段を踏まえ、実際に何をすべきかを以下で具体的に示します。
取引銀行の振出期限と取立期限を確認する
最初に確認すべきは、自社が利用する金融機関の手形帳発行状況、最終振出期限、取立の受付期限です。
全国銀行協会は、金融機関ごとの最終振出期限を一覧にまとめて公表しています。
一律の日程で判断せず、実際の取扱条件は各金融機関の公式情報で確認してください。
複数の金融機関を利用している場合は、それぞれの期限が異なる可能性があるため、個別に確認する必要があります。
支払期日が先になる受取手形についても、取引銀行の取立期限を早めに把握しておくと、資金化できない事態を防げます。
取引先と今後の支払方法について協議する
次に、手形を利用している取引先を洗い出し、支払方法の変更時期について事前に協議します。
一方的に決済方法を変更すると取引先の資金繰りに影響するため、変更時期や支払日、手数料の扱いをあらかじめすり合わせておく必要があります。
取引先が多い場合は、優先度の高い相手から順に案内すると実務上進めやすくなります。支払条件の変更内容は、口頭ではなく書面や電子記録で共有し、後から確認できる形にしておくことが望まれます。
でんさいや銀行振込への移行準備を進める
取引先と支払方法を決めたあとは、実際に電子決済へ切り替えるための社内準備を進めます。
全国銀行協会は、電子化を支援するサービスとして、電子記録債権を扱う金融機関や、でんさいライトなどの導入手続きに関する情報を提供しています。
利用する決済方法に応じて、金融機関への申込みやシステム設定が必要になります。経理処理や債権管理の社内手順も見直し、取引先と切替日を確認したうえで新しい決済方法へ移行してください。期限直前にまとめて対応しようとすると手続きが混み合うため、早めに着手しておく必要があります。





