2016年4月より施行された「女性活躍推進法」。女性が働く機会の拡大や、その活躍を支援する目的で制定された法律です。
この法律の施行をきっかけに、女性の雇用促進や働きやすい職場環境の整備を積極的に進めるなど、組織体制を見直した企業も多くみられるようになりました。
では、女性の採用は企業にどのような影響を与えるのでしょうか。メリットやデメリット挙げながら考えていきたいと思います。また、女性を採用するうえで取り組みたい施策や注意点といったポイントについても触れていきます。
女性の採用を検討するべき理由
先に述べた「女性活躍推進法」は、あくまでも女性の働く機会の拡大を推奨・支援する目的で制定された法律であり、女性の採用を強制するものではありません。
2022年の法改正により、家庭と仕事を両立可能な環境整備(雇用環境整備、個別の周知・意向確認)こそ義務付けられましたが、女性の採用がなければ組織が成り立たないということは、もちろんありません。
ただ、近年は女性のキャリア志向が高まりをみせるほか、出産や育児を経ても長期的に仕事を続けていきたいと考える女性も増えています。そういった仕事に対する熱意や意欲は、会社の成長促進の面においても不可欠な要素であり、女性の採用が利益向上に結びつく可能性もあるでしょう。
また、少子高齢化や人口減少といった労働力不足という根本的な雇用課題の解決へと導くカンフル剤にもなるはずです。現状、男性中心で構成されている企業も、今後は女性を中心とした雇用対象の幅を広げることで、労働力の確保をスムーズに進められるようになるかもしれません。
女性採用で生じるメリットとデメリット
企業は女性の採用により、どのようなメリットが得られると考えられるのでしょうか。また、生じる可能性のあるデメリットはあるのでしょうか。
・メリット
業務効率化や職場環境の改善に期待できる
性差に基づく“らしさ”という考え方は、ジェンダーレスの概念が広がる現代においてふさわしくないかもしれませんが、やはり女性には“女性らしい習性や能力”が少なからずあるはずです。
たとえば、きめ細やかな配慮や共感力。実際、男性に比べると、きめ細やかな配慮や応対ができる女性が多く存在すると感じるのは事実ではないでしょうか。また、出産や育児、家事を経験してきた女性は、マルチタスク能力にも優れている傾向があります。
こうした習性や能力は、社内や取引先との様々な対応に求められるものです。それらを備えた女性の採用を積極的に行うことにより、業務効率化や職場環境の改善などにも期待できることでしょう。
商品やサービスの開発・改善に女性消費者の視点を盛り込める
商品やサービスの開発を手がける企業は、女性の担当者を増員することにより、女性消費者の視点を盛り込めるようになります。
家庭内における消費行動の決定権は、女性のほうが多く握っているというデータ報告があることからも分かるとおり、女性消費者の視点は商品やサービスの開発から改善まで幅広く役立つことは明白です。
その一方で、担当者が女性のみで構成されてしまうと、男性消費者の視点が乏しくなる可能性も否めません。男性向け、女性向けを問わず、商品やサービスを手がける企業では男女のバランスを考慮した視点を盛り込むのが適切だといえるでしょう。
企業のイメージアップにつながる
女性の従業員数が多く、活躍も目立つ企業は世間的なイメージがよいものです。
その大きな理由は、女性が無理なく働ける環境や制度が整備されていると認識されるため。産休や育休制度や復帰に備えた環境や制度の充実は、女性にとって心強いサポートであり、求職活動時の第一条件に据える人も少なくありません。
企業としてのイメージアップを図りたい展望は、女性求職者の条件にも直結するため、女性に嬉しい環境や制度の導入は積極的に試みましょう。
ダイバーシティの推進をアピールできる
ダイバーシティとは「多様性」や「相違点」を意味する言葉であり、政府が2010年代後半から掲げる働き方改革の中で重要視されているキーワードのひとつ。企業における従業員の性別や年齢、国籍、ライフスタイルといった、それぞれの属性を尊重した採用や活用の促進を目指した取り組みを指します。「女性活躍推進法」も、当然ながらダイバーシティ推進を目指すうえで施行された法律です。
ダイバーシティの推進は、従業員にとってよりよい職場環境づくりへの意欲提示にもなります。企業のイメージアップ策の一環にもなりますので、進んで取り組むべきだといえるでしょう。
女性の雇用や活躍を支援する助成金の受給対象に
女性の雇用や活躍を支援する助成金制度も充実しています。なかでもよく知られているのが、厚生労働省による「両立支援等助成金」。要項については割愛しますが、「出生時両立支援コース」や「育児休業支援コース」などのコースに分けられた、女性が働きやすい環境や制度の整備に必要な費用を助成する制度です。
また、「東京しごと財団」という公益財団法人では、女性用のトイレや更衣室の新規設置費用を助成する「女性の活躍推進助成金」という制度を実施しています。
各自治体で実施されている助成金制度もあるかと思いますので、これから女性採用を活発化させたいという展望があれば、インターネットやハローワーク等で探してみるとよいでしょう。
・デメリット
出産や育児休暇による欠員
女性採用における大きなデメリットは、まずないといえます。
強いて挙げるとすれば、出産や育児休暇などを理由に欠員した場合の対応が必要になることでしょうか。ただし、昨今では、男性の育児休暇制度の導入や取得推進を活発化させている企業も増加していることから、女性採用に限定される生じるデメリットとはいえません。
仮に出産や育児休暇などを理由にした欠員が生じた場合であっても、マニュアルを作成して効果的な活用体制を築いておくなど、引き継ぎに備えた対策を事前に整えておけば、混乱は避けられるはずです。
女性採用にあたってのポイント
では、女性を採用するうえで取り組みたい施策や注意点といったポイントはどのようなものがあるのでしょうか。
活躍と勤務の継続が可能な環境や制度の整備
出産や育児に関するものだけでなく、女性が個性や能力を最大限に発揮し、勤務を継続したくなるような環境や制度も整えておきたいものです。
たとえば、能力に合わせたセミナーや勉強会への参加促進や使用ソフトの充実など、スキルアップにつながる施策は惜しみなく提供できるようにしておきます。
また、テレワークや時短勤務の推進、フレックス制の導入など、それぞれのライフスタイルに応じて勤務できる制度も導入しておくのもよいでしょう。
管理職への積極指名
女性が活躍できる企業をアピールするのであれば、積極的に管理職へ指名、推薦していくのも効果的です。
リーダーとして、仕事のみならず女性ならではの相談ごとにも応じやすくなるなど、女性従業員の定着にも期待できます。
採用活動前にはペルソナを設計してみる
女性の採用を進めていくからといっても、闇雲な採用活動を行なっていては求める人材の確保はできません。
そこで、採用活動にあたってはあらかじめペルソナを設計して、求める人物像を明確化しておきます。この際、意識したいのは、年齢や趣味・特技、悩みや不安、行動特性、職歴、前職の退職理由などの属性について、なるべく具体的に設計すること。
たとえば、
年齢 27歳
趣味特技 読書、水泳、旅行
悩みや不安 将来に向けた資産形成
行動特性 好奇心旺盛で行動力が高い
職歴 広告代理店へ新卒入社、その後デザイン事務所へ転職
前職の退職理由 深夜残業が当たり前で肉体的にも精神的にも疲弊した
このように、ペルソナを設計することができれば、求める人物像が浮き彫りになり、効率的かつ満足度の高い採用活動が行えるようになります。また、自社にどのような施策や意識が欠けているか、どのような環境や制度を整備すれば女性従業員の充実度が高まるのかも分析できることでしょう。
企業としての訴求ポイントを確立しておく
どれだけ充実した環境や制度を整えたとしても、女性を採用したい意向があっても、自社のアピールがうまくできなければ、水の泡です。
大切なのは、女性に入社したいと思われるように訴求ポイントを確立しておくこと。
自社に入社すれば、職場でどのような時間を過ごすことになるのか、ライフスタイルにどう影響するのかなど、伝えたいポイントや求められる可能性の高い情報は細かくまとめておき、すぐに提示できるようにしておきましょう。
まとめ
今回は、女性採用による企業へのメリットとデメリットや、採用するうえで取り組みたい施策や注意点について解説しました。
企業が女性を採用することで生じると考えられるメリットは複数ある一方、目立つデメリットはありません。
「働き方改革」の打ち出しや「女性活躍推進法」の施行もあり、女性が働きやすい職場づくりは、今や企業が果たすべき社会的な責任のひとつだといえます。
企業として、必要な環境や制度の整備を積極的に進めていき、女性が満足しながら活躍できる機会の拡大に努めていきたいものです。