日本は世界の先進国に比べて起業家の数が少なく、また起業することが難しい国だといわれています。
2016年に中小企業庁が発表した中小企業白書によれば、日本の1年間の開業率は4〜5%で推移しており、これはアメリカやイギリスに比べると半分に過ぎません。
また世界銀行が発表した2019年度版の「ビジネス環境に関する報告書(世界190カ国のビジネスに関わる項目をランキングにしたもの)」の「起業のしやすさ」というランキング項目においては、日本は93位で、資金調達面では85位という結果でした。
この結果を見ると、いかに日本で起業が活発化していないのかが分かります。同時に、世界からは日本では起業が難しいというレッテルを貼られてしまっているようです。
ではなぜ日本では起業家が増加しないのでしょうか。
日本で起業家が増加しない理由
・根強い安定志向
日本人は欧米各国の人々に比べて、リスクを伴うチャレンジを避け、安定した職と生活を手にいれたいと望む性質であることがよく言われています。
実際に、戦後以降の日本では統制的に終身雇用が導入され、一度会社に入社すれば、生涯を保証されるという考え方が根付き、現在でも安定した終身雇用を求めて、新卒生を含めた多くの人が高い給与を万全の社会保障を完備する大企業への就職を目指す傾向にあります。
2008年に起こったリーマンショック以降は、たとえ大企業であっても倒産のリスクを抱えていることを実感し、安定よりも自身の興味や関心を形にできるような発展途上にあるベンチャー企業を志望する傾向がみられるようになりましたが、それでも起業にいたるまでにはいかず、会社に守られる道を選ぶ傾向がみられます。
さらに企業側としても、時間とお金をかけて育てた従業員の経験や知識を手放すのを避けたいがために、転職や独立に対して積極的に後押しできない風潮があるようです。
リスクの回避
起業したからといって必ずしも成功する保証はなく、失敗した際のリスクは相当なものです。
もちろん個人的に事業資金を金融機関等で借り入れていた場合には、それ相応の債務を背負うことになることはいうまでもありませんが、同等のリスクとして倒産後の再起の難しさが挙げられます。
起業に失敗した人の選択肢には、もう一度、起業を目指すか、就職やアルバイトによって被雇用者になる。または登記をすることなくフリーランスとして事業を開始するという道もあります。
しかし日本では、大きな失敗をした人に対する風当たりは強く、信頼は著しく低下する風潮があるため、どの道を選ぼうと、よほどのコネや強固な信頼関係を結んでいる知人がいない限り、再起のためには時間がかかるのが現状です。
たとえば再び、起業を目指す場合であれば、資金の調達が必要となりますが、当然ながら、一度起業に失敗した人に対しては投資を受けることはおろか、ノンバンクのビジネスローンの融資審査さえ厳しくなることでしょう。また生活費の確保の必要性も生じるため、よほどの金銭的余裕がなければ自己資金で捻出するのは難しいはずです。
このように、失敗した際のリスクは大きく、再起も困難になることも起業を躊躇させる要因となっています。
会社設立までの複雑な手続き
次に、会社設立に至るまでの複雑な手続きが挙げられます。
なかでも法人登記に必要な書類は、条件次第で不要になるものもありますが、登記申請書や定款、印鑑届出書や代表取締役などの役員の就任証明書など全部で12種類あります。
起業に向けて、事業計画を立案したり資金の確保をしなければならない状況の中で、このような複数の書類の作成は煩わしいだけでなく、時間的な消耗にもつながるため、多くの起業家の頭を悩ませています。
内閣府を中心に、起業の推進を図るため手続きの簡略化や書類の電子化に向けて議論も交わされているようですが、多くのしがらみによって難航し、現時点での実現は難しいようです。
起業をサポートする動き。資金調達面の支援拡充
日本で起業家が増加しない理由には、上記のように日本人の性質や会社設立までの煩雑さなどが挙げられますが、現在の日本では、起業を支援するため政府や各自治体も起業環境の改善に取り組み始めています。
その大きな取り組みのひとつが資金調達面の支援です。
中小企業庁による補助金の「創業補助金」や、日本政策金融公庫による融資などの活用を呼びかけ、起業家の資金調達をサポートする姿勢をみせています。
そのほかにも、近年注目を集めているクラウドファンディングやベンチャーキャピタルの投資金額の増加など、資金調達の多様化が進んでいます。
資金調達も、起業を躊躇させる高いハードルのひとつです。
日本人の安定志向やリスクに対する恐怖を直接振り払うものではありませんが、これらの制度をうまく活用できれば、起業に対する考え方も軟化されるのではないでしょうか。