ファクタリングは、売掛債権の売却によって実際の入金日よりも、早期の回収が可能になる資金調達手段です。そのような特性から、“借りない資金調達手段”とも呼ばれますが、いくら借り入れではなくても、得られた資金はしっかりと会計処理をしなければなりません。
ファクタリングを利用した場合は、利用手数料が差し引かれるため、当然ながら実際の売掛金よりも少ない金額の資金が入金されることになります。では、減少した分はどのように会計処理をすればよいのでしょうか。
ファクタリングが未経験だと、少し頭を悩ませるかもしれません。ですが、ファクタリングを利用した場合の会計処理はさほど複雑ではなく、要領さえ掴めれば難しくはありません。
そこで今回は、ファクタリングを利用した場合の会計処理を具体的に解説するとともに、注意したいポイントにつても紹介していきたいと思います。
これから利用を検討したいと考える事業主様は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
通常の掛取引における会計処理
まずは、通常の掛取引の例をみてみましょう。
・掛取引で売掛金が“発生”した場合の会計処理
以下は、1,000万円の売掛金が“発生”した場合の賃借対照表(バランスシート)です。
借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額
売掛金 1,000万円 売上 1,000万円
・掛取引で“入金”された場合の会計処理
続いて、1,000万円が実際に“入金”された場合の賃借対照表です。
借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額
現金(預金) 1,000万円 売掛金 1,000万円
通常の掛取引における会計処理のポイントは、売掛金が未入金の状態であっても“発生”した時点で計上することです。
つまり、“発生時”と“入金時”の2回にわたって、売掛金を計上することになります。
これに対し、ファクタリングを利用した場合は3回にわたって仕訳をする必要があります。
ファクタリング利用時の会計処理
ここからは、ファクタリングを利用する場合の会計処理をみていきましょう。
まずは通常の掛取引と同じように仕訳を行います。
・ 掛取引で売掛金が“発生”した時点での会計処理
借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額
売掛金 1,000万円 売上 1,000万円
・ ファクタリング“契約時”の会計処理
ファクタリングを利用する場合には、ファクタリングの“契約時”の仕訳が必要になります。
1,000万円の売掛金が発生した状態から、次のような条件でファクタリングの契約をするとします。
「買取対象売掛金 1,000万円」
「ファクタリング手数料10%」
仕訳は以下のとおりです。
借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額
未収金 1,000万円 売掛金 1,000万円
これがファクタリング“契約時”の仕訳です。
掛取引で売掛金が“発生”した場合との違いは、借方勘定科目が「未収金」、さらに貸方勘定科目が「売掛金」に変わる点です。
「未収金」とは、端的にいうと営業取引以外で発生したお金のうち、未入金のものを指します。したがって、これからファクタリング会社から入金が得られる予定のお金を「未収金」として計上しておくというわけです。
ここでの注意点としては、あくまでも買取対象売掛金の全額を「未収金」として計上するということ。契約時にファクタリング手数料の提示を受けることになりますが、この段階では、これを差し引いた金額を計上する必要はありません。
・ ファクタリング“入金時”の会計処理
ファクタリングを利用する場合は、“契約時”に加えて“入金時”の仕訳も必要になります。
まずは、仕訳をみてみましょう。
借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額
現金 900万円 未収金 1,000万円
売上債権売却損 100万円
“入金時”には、借方勘定科目が「現金」、貸方勘定科目が「未収金」に変わり、さらに売上債権売却損が追加されます。
売上債権売却損とは、売上(売掛)債権を譲渡した際に生じた損失のこと。つまりファクタリング手数料です。この段階で、初めてファクタリング手数料を差し引くことになります。
ここでの注意点は、借方勘定科目である「現金」と「売上債権売却損」の金額が、貸方勘定科目と一致するか確認すること。
上記の例の場合は、「現金(入金される金額)」+「売上債権売却損(ファクタリング手数料10%)」が「900万円+100万円=1,000万円」となり、貸方勘定科目の1,000万円と完全に一致するため、正確に会計処理されていることになります。
なお、ファクタリングの“入金時”は、売上から差し引きされなければなりませんので、損益計算書にも忘れずに反映させるようにしてください。
“契約”と“入金”が同日に実行される場合の会計処理
上記が、ファクタリングの利用時における一般的な会計処理となりますが、例外もあります。
それが、いわゆる「即日ファクタリング」を利用した場合です。
「即日ファクタリング」とは、その名のとおり“契約”と“入金”が同日に実行されるファクタリングであり、主に2社間ファクタリングを利用した場合に適用されます。
「即日ファクタリング」を利用する場合も、まずは売掛金の発生段階での会計処理を行います。
借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額
未収金 1,000万円 売掛金 1,000万円
この後、“契約”と“入金”にタイムラグが発生する場合は“契約時の仕訳”を行うことになりますが、同時に実行される場合はまとめて仕訳するようにします。
借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額
現金 900万円 売掛金 1,000万円
売上債権売却損 100万円
つまり、2社間ファクタリングなどの“契約”と“入金”が同時に実行される「即日ファクタリング」を利用する場合は、2回の仕訳でかまわないということです。
「即日ファクタリング」は、契約を交わしたその日のうちに売掛金を回収できるだけでなく、会計処理の手間も省かれるというメリットもあります。
ファクタリング手数料の勘定科目は「売上債権売却損」だけではない
使用中の会計ソフトによっては「売上債権売却損」という勘定科目がない場合があります。特に、古い会計ソフトではこのようなケースが顕著です。
ですが、勘定科目に「売上債権売却損」がなくても慌てる必要はありません。ファクタリング手数料である「売上債権売却損」は、ほかの勘定科目に置き換えることも可能なのです。
たとえば「割引料」。
その理由は、手形割引とファクタリングが類似した仕組みであるため。「割引料」は、手形割引を利用する際の「利息」として差し引かれる営業外損失ですが、ファクタリング手数料はその仕組み上、手形割引における「利息」と同じ様に扱うことが可能というわけです。
また、「売上債権売却損」は、「割引料」だけでなく「雑所得」や「債権割引料」、「支払手数料」で仕訳けることもできますので、あわせて覚えておきましょう。
ファクタリング利用時の会計処理はシンプル
以上が、ファクタリング利用時の会計処理の方法や注意点です。
売掛金の譲渡、さらには手数料の差し引きを伴うこともあり、ファクタリング利用時の会計処理は難しいと思われがちですが、それほど複雑でも難解ないことがお分かりいただけたかと思います。
ポイントをまとめると、“契約”と“入金”が別々に行われる場合には、売掛金発生の仕訳に加えて、“契約時の仕訳”と“入金時の仕訳”が必要になり、同時または同日に行われる場合には、売掛金発生の仕訳と“契約”“入金”をまとめて仕訳するということになります。
また、借方勘定科目と貸方勘定科目の変化にさえ注意すれば、ファクタリングの会計処理に大きなミスが生じることもないでしょう。
売掛金担保融資の会計処理
売掛金を売却して早期に回収するファクタリングに対し、売掛金を担保にして借入を行う「売掛債権担保融資」という資金調達手段もあります。
両者ともに、売掛金が基になる資金調達手段であるため、仕組みだけでなく会計処理も混同されることがよくありますが、ファクタリングと売掛債権担保融資の会計処理は異なるものです。
ここからは、売掛債権担保融資の会計処理について解説しますので、両者の違いをよく理解しておいてください。
・ 売掛債権担保融資の実行時の仕訳
売掛債権担保融資で、1,000万円の借入を実行した場合の例を挙げます。
借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額
現金 1,000万円 借入金 1,000万円
売掛債権担保融資は、あくまでも借入となりますので、貸方勘定科目は「借入金」となります。
また、売掛債権を売却するのではなく、「担保」として扱われることになるため、ファクタリング利用時のように、売掛金を減少させる会計処理をする必要はありません。
・ 返済時の仕訳と利息の仕訳
売掛債権担保融資は借入ですので、当然ながら借入金の返済が求められます。返済時の仕訳は以下のとおりです。
借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額
借入金 1,000万円 現金 1,000万円
さらに、借入ということは利息も発生するため、こちらも計上します。
なお、今回は100万円の利息としておきます。
借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額
支払利息 100万円 現金 100万円
以上が、売掛債権担保融資の会計処理です。
すでにお気づきかと思いますが、売掛債権担保融資の会計処理は、一般的な借入処理と変わりはありません。
まとめ
今回は、ファクタリングをした場合の会計処理について解説しました。
ファクタリングは借入に比べると、資金調達におけるリスクが軽減されるケースもありますが、会計処理が複雑そうだという理由から、利用を敬遠される事業主様も少なくありません。
ですが、実際にはいくつかのポイントをおさえるだけで、処理はスムーズに完了できるはずです。事前に仕訳の仕方を確認しておけば、いざという時に慌てることもないでしょう。
ファクタリングを利用する際は、ぜひ当記事の内容を参考に会計処理を行ってみてください。