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内部留保とはなにか。会社が保有する現金や預金のことを指すわけではない?

内部留保とはなにか。会社が保有する現金や預金のことを指すわけではない?

「日本の企業は株主への配当や従業員の賃上げを渋ることにより、内部留保を積み上げ続けている」

一部の株主や専門家、団体などから、このような不満の噴出やそれに対する議論などが度々行われることもある通り、日本の企業は欧米の企業と比較しても非常に高い水準の内部留保を有していることで知られています。

2021年に財務省が発表した法人企業統計によると、2020年度末における日本企業の内部留保は(金融・保険業以外)484兆3648億円で、2019年度末に比べると2.0%の増加。

これは新型コロナウイルスの影響によって多くの企業が設備投資などの支出を控えたことが要因とみられますが、それ以前から日本企業の内部留保の増加は続いており、9年連続で過去最高額を更新しているのです。

内部留保と聞けば、「大企業による溜め込み」のようなイメージも強いものです。しかし、規模の小さい中小企業も着実に積み上げている傾向にあることから、日本企業全体で増加しているといえます。

ところで、皆さんは内部留保とはどのようなものであるかご存知ですか?

経営者の方や財務担当者の方からすれば「何を今さら」とお思いになるかもしれませんが、内部留保に対する知識をお持ちの方はそう多くないようです。

一般的に内部留保というと「企業が保有するお金」、個人におきかえれば「預金」というようなニュアンスで捉えられている方が多いようですが、実は「内部留保=現金や預金」というわけではないのです。

では内部留保とは一体どういうものを指すのか。
今回は、内部留保やそれに関連する事項について解説していきたいと思います。

内部留保とは

内部留保とは内部留保とは、企業が生み出した利益から税金や配当、役員報酬などの社外流出分を差し引いたお金で、社内に蓄積されたものを指します。

社内留保ともいいます。
引用 SMBC証券
https://www.smbcnikko.co.jp/terms/japan/na/J0549.html

上記はSMBC証券のホームページに記載された内部留保の説明文ですが、内部留保を説明するうえでミソとなるのは、「企業が生み出した利益から〜」という箇所。

したがって、たとえば銀行からの借入金が300万円と、利益から税金や配当、役員報酬などの社外流出分を差し引いたお金が700万円とした場合、その企業は1,000万円のお金が保有していることになりますが、内部留保にあたるのは700万円ということになります。

つまり、内部留保とは企業が保有する現金や預金の総計というわけではなく、あくまでも「企業に残された利益の蓄積」であるということがわかります。

賃借対照表における内部留保

賃借対照表における内部留保賃借対照表において1会計期間ごとの内部留保は、「純資産の部」の「利益剰余金」の項目に加算されていきます。

したがって「利益剰余金」とは内部留保の累計額であり、会社が設立されてから現在までに残されている利益を表しているということになるため、企業における財務の健全性を示す指標として重要な役割を果たすものともいえるのです。

なお、内部留保の源泉ともいうべき最終的な利益を示すのは損益計算書における「当期純利益」であることもあわせて覚えておきましょう。

内部留保が経営に与える影響

内部留保が経営に与える影響では、内部留保は企業経営にどのような影響を与えるのでしょうか。

メリットとデメリットの両面から考えてみましょう。

メリット1
万が一の際に備えられる

内部留保は企業が保有する「すべてのお金」とは限らないものの、自社が積み重ねてきた純資産のひとつであり、利益が減少した際でもこれを切り崩すことで負債を増加させることなく経営危機を乗り切れるケースもあります。

最近では新型コロナや原油価格高騰の影響などにより、深刻な経済危機が相次いで訪れていますが、たとえ利益の減少が続いたとしても内部留保が十分だったこともあって借り入れをしない、または最小限に抑えながら経営を維持できている企業も少なくはないはずです。

冒頭にて日本企業の内部留保は9年連続で過去最高額を更新中であると解説しましたが、9年前といえばリーマンショックからの立て直しが進められていた一方で、東日本大震災が発生した頃。

多くの企業が、そのような経済危機とそれに伴う利益減少を経験する中で、万が一に備えるべく、内部留保に対する強い意識が向けられたと考えられるのではないでしょうか。

メリット2
内部留保は信用スコアとして重視される

もうひとつのメリットとして挙げられるのは、内部留保は信用スコアとして重視されるという点です。

日本の商取引では掛け取引や手形取引が一般的であり、これらの取引を成立させる要素として重視されるのは何よりも互いの信頼関係であるということがいえます。

もしも相手側の財務状況が芳しくなく、取引におけるリスクが高いと判断できれば、信頼関係の構築は難しいと判断せざるをえません。

一方で、十分な内部留保は企業の健全な財務体質を証明する指標となることから、必然的に取引にあたっての信用スコアとして用いられ、互いの信頼関係を築くうえで効果的に働きます。

また、融資の際にはほぼ必ず賃借対照表の提出が求められることになりますが、この際にも「利益剰余金」の項目の数値が高ければ、財務体質の高い評価につながるため、金融機関からの信頼も得やすく融資審査においても有利になります。

デメリット1
自社株の高騰により事業承継に支障を与える可能性

反対にデメリットとして考えられるのは、自社株が高騰することによって事業承継に影響を与える可能性が生じることです。

内部留保が多い会社は社外からの評価も高まることになりますが、それは同時に自社株の価値の上昇させることになります。

その結果、何らかの事情により事業承継が決定している場合、決定のタイミングと自社株の高騰のタイミング次第では、事業を引き継ぐ後継者や企業に思わぬ負担になることも考えられます。

それによって、せっかく決定していた事業承継を断念せざるをえなくなってしまうケースも実際にあるため、事情やタイミングによっては内部留保の切り崩しを考慮に入れる必要もあります。

デメリット2
株主や従業員からの反発が高まる可能性

もうひとつのデメリットとして考えられるのが、株主や従業員からの反発が高まる可能性です。

内部留保は株主への配当金はもちろん、従業員への給料やボーナスも差し引いたお金ですので、会社が過剰に利益を留保して配当金を減額したり、いつまでたっても昇給が行われないようものなら、株主や従業員からの反発を招いてしまうこともあるはずです。

また、株主や従業員が設備投資や人材育成などの必要である事業投資を求めているにもかかわらず、内部留保の切り崩しを躊躇して、それを拒み続けるなどした場合にも大きな不満を募らせる結果が想像できます。

内部留保を増加させるためには?

内部留保を増加させるためには?内部留保は企業にとってメリットしかにようにも思われがちですが、ケースによってはデメリットも生じさせるものです。

しかし経営者の立場からすれば、自社の純資産であり信用スコアにもなる内部留保はなるべく高めていきたいと考えるのが当然でしょう。

では、内部留保を増加するにはどうするべきなのでしょうか。

ひとつは当期純利益を増加させることです。

純利益とは、本業によって得られた売上から原価や販売・管理費、さらに本業以外で発生した営業外利益や特別損益、そして各種税金を差し引いた利益です。

したがって、純利益は「内部留保の源泉」ともいえますので、赤字を回避して純利益をいかに増加させられるかが、内部留保の増加のためのポイントとなります。

ふたつめは配当金の減額です。

これは中小企業には当てはまるものではありませんが、株式市場へ上場しているような大企業の場合は不特定多数の株主に対して配当金を支払う必要があります。

つまり単純に考えても理解いただける通り、配当金の額を減らすことによってより多くの内部留保を確保することが可能になります。

ただしデメリットの項目でも触れたように、配当金の減額は株主からの反発を受けるとともに、株価の下落を招くことも考えられることから容易にはいきません。

ちなみに大企業よりも中小企業の方が高い内部留保を保有している傾向にありますが、これは多額の配当金を支払う必要がなく、純利益の多くを内部留保として蓄えることができるからです。

内部留保は課税対象になるのか?

内部留保は課税対象になるのか?最後に、内部留保は課税されるかどうかについてもみていきましょう。

結論からいえば、原則として内部留保は課税対象にはなりません。

ところが例外として、「留保金課税」と呼ばれる追加の法人税の支払いを求められる法人があります。

それが資本金または出資金が1億円以下の「特定同族会社」です。

特定同族会社とは、同族会社(家族経営企業)の中で株式の50%超を1つのグループが独占している法人。

このような法人の場合、実質的に法人の財産は個人の財産になります。

つまり配当金を得られる権利を持つ人物は株主本人となることから、本来個人で受け取る必要のある配当金を社内に留保して、個人の所得税課税を回避することが可能になります。

特定同族会社の内部留保に追加課税されるのは、このような租税回避を防止するためです。

まとめ

まとめ今回は内部留保とそれに関連する事項について解説しました。

内部留保とは、当期純利益を源泉とする「会社に残された利益の蓄積」であり、必ずしも保有する現金や預金の総計というわけではありません。

また、内部留保は万が一に備えた「蓄え」としてのみならず、企業の財務体質を示す指標のひとつでもあります。

そのため、内部留保の額が高いほど信用スコアも上昇し、取引先や金融機関との信頼関係の構築に効果的に働くことも理解しておきましょう。