企業が経営を行ううえで、避けては通れないのが法人税の支払いです。業績によっては、大きな税負担となりかねない法人税ですが、裏を返せば法人税の支払いは企業として存在している証であるともいえます。
そんな法人税ですが、具体的な時期こそ示されてはいないものの、早ければ2024年の税制改正にて増税する見込みであるといわれています。
では具体的にどれほどの増税が予想されているのか。また、増税によって中小企業にはどのような影響を及ぼすのか。そして、今後の増税に対してどういった対策を講じていくべきであるのか。それぞれについてくわしく解説していきます。
目次
法人税増税に踏み切る背景
そもそも、どうして法人税の増税が必要なのでしょうか。
一般的に、法人税が増税される理由としては以下のようなものが挙げられます。
財政の健全化
政府は予算のバランスを取るために収入を増やす必要があります。そこで法人税を増税することによって国の歳入を増やし、予算の赤字削減を図ります。
社会的なニーズの充足
教育、医療、社会保障などの公共サービスを提供するために予算が必要になります。法人税の増税は、これらのサービスの充実を支えるための資金を確保するひとつの手段として用いられます。
経済の均衡
健全な経済を支えるためには、適切な収入が必要になります。法人税の増税は、富の再分配や経済の均衡を図る一策としても検討されることがあります。
国際的な調和
国際的な競争力を維持するために、他国と比較して適切な税率を保つことが求められる場合もあります。したがって、国際的な税制競争に対応するために、法人税を調整するわけです。
予期せぬ事態への対応
自然災害や健康危機、国内外の社会情勢などの予期せぬ事態に対応するための予備資金が必要な場合、法人税の増税が検討されることがあります。
これらが、法人税増税の一般的な理由として挙げられますが、このうち2024の税制改正にて見込まれる法人税増税については、主に「予期せぬ事態への対応」に向けての施策だと考えられます。
2022年から続くロシアのウクライナ侵攻、そして繰り返される北朝鮮からの弾道ミサイル発射や核開発、中国による武装強化の進行といった武力による脅威が増す中で、いくつもの先進国が防衛費の増額を進めています。
世界の安全保障環境が揺らぐ情勢下において、日本政府も自国の防衛力の強化を図る必要性に迫られており、これに対応する防衛費確保に向けた税収増のために法人税増加を検討しているとみられます。
現在検討されている増税案
政府が打ち立てているのは、2027年度に年間でおよそ1兆円の税収増。この税収増に向けて検討されているのが法人税のほか、所得税やたばこ税の増税です。所得税の増税に関しては、退職金に対する増税がほぼ確実視されており、最近では反発する世論の増加も目立っています。
本題に戻りますが、現在検討されている法人税の増税案は4〜4.5%の付加税を課すもの。
ただしすべての企業に対して、この付加税が課されるというわけではなく、年間所得が2,400万円以下の中小企業については対象外とされる見込みです。また年間所得が2,400万円を超える中小企業であっても、500万円の控除が設けられるとされています。
年間所得2,500万円以上の企業は税負担増加
500万円の控除が設けられるとはいえ、この増税案が決議されれば年間所得2,400万円を超える企業は確実に税負担が増すことになります。
たとえば、年間所得が2,500万円の中小企業の場合、法人税は以下のような金額になります。
2,500万円×23.2%=575万円
この税額から控除となる500万円を差し引きます
575万円−500万円=75万円
さらに75万円に対し、付加税である4〜4.5%をかけます
75万円×4〜4.5=3万円〜3.3万円
つまり年間所得が2,500万円の中小企業の法人税は、575万円+3万円〜3.4万円=578万円ほどになります。
この算定額をみると、わずか3万円ほどの負担増であると軽んじる経営者も少なくはないと思われますが、業績や財務状況によっては、たとえ3万円の負担増であっても経営の足枷になる可能性も考えられます。
法人税の増税によって企業が受ける影響
では、法人税の増税によって企業はどのような影響を受けると考えられるのでしょうか。
・キャッシュフローの悪化
まずはキャッシュフローの悪化です。法人税の増税によって税負担が増せば現金の流れを意味するキャッシュフローが乱れ、資金繰りに悪影響を及ぼす可能性が生じます。
キャッシュフローが乱れると、材料費の捻出が困難になるなどの問題へと進展し、結果として業績の悪化や赤字経営、そして倒産につながることもあるでしょう。
また中小企業の場合、一度キャッシュフローが乱れ、赤字経営に陥れば金融機関からの融資にも影響するなど、資金調達面でも苦戦を強いられるようになることもあります。
・ 経営コストの増加
税負担が大きくなるということは、経営コストの上昇を意味します。経営コストが上昇すれば、それまでの事業への投資費を抑制しなければならないケースが生じるほか、計画していた新規事業や新製品・新サービスの開発が困難になるといったことも考えられます。
・新しい人材確保の困難化
税負担の増加による経営コストの上昇は、投資の抑制につながる。つまり事業への投資だけでなく、雇用をはじめとした人材への投資も抑えざるを得なくなる可能性がでてきます。
人材への投資が抑制されれば、新規雇用の見直しはもちろん、社員の教育費も縮小され、人材の確保も成長も阻害されてしまうことになりかねません。また給与や福利厚生といった面にも影響を与え、在籍中の社員もモチベーション低下や離職の傾向が高まり、企業としての価値や競争力の低下も招きかねないでしょう。
法人税増税に対して中小企業が講じるべき対策
たとえ数万円程度の税負担増に抑えられたとしても、早めに対策を打たなければ、予想もしていなかったケースに陥ることもあるはずです。
ここからは、今後の法人税増税に対して中小企業が講じるべきである税金対策について解説します。
・様々なコストを削減する
増税に対する対策のひとつは、やはりコストの削減です。
残念ながら税額を抑えられることは可能であっても、支払いからは逃れることはできません。そこで、事業を通じて生じる様々なコストを削減して、増税が経営に与える影響を抑えます。
ひとつ例を挙げるとすれば、在庫整理があります。過剰な在庫を減らすのはもちろんですが、管理するのに必要な設備の導入費や人件費といった在庫管理コストを縮小させてキャッシュフローや利益率の維持や改善を図ります。
・可能な限りの節税対策を講じる
法人税額を抑えるためにも、可能な限りの節税対策を講じることも必須です。そうは言っても、無理やりに経費を膨張させればいいというわけではありません。
たとえば、営業車の購入が必要であれば4年落ちの中古車を購入して1年で減価償却するといった、合法的な節税手段を用いて法人税額を抑えるということです。
・返済の必要がない資金調達手段を活用する
資金調達を検討するにあたって最初の選択肢となるのが金融機関からの融資ですが、なるべく融資に頼らない資金調達を実行することも効果的です。
融資に頼らない資金調達手段の代表的なものといえば補助金と助成金。
返済の必要がない補助金や助成金を活用することにより、資金調達にかかるコストを抑えながら、設備投資や社内環境の整備を進めることが可能になります。
このようにして財務負担を軽減させることで、企業力の低下を防ぐだけでなく、さらなる発展にも期待できるようになり、増税に対しても余裕をもって対応できるはずです。
また、中長期的な返済の必要がない資金調達手段のひとつとして挙げるのであれば、ファクタリングも存在します。
ファクタリングは、利用手数料こそ差し引かれるものの、融資のように利子を伴う中長期的な返済は不要であるうえに、売掛金の範囲内での利用に限られるため、財務に大きな影響を与えることなく資金を調達することが可能です。
法人税の支払いが困難であると判断できた場合などにおいて、ピンポイントで活用できるという点は利点であり、増税への対策手段のひとつになるでしょう。
・事業再構築を視野に入れる
財務負担を軽減し、余裕をもって増税に対応するという観点から考えると、事業の再構築を実施して経営におけるリスクの分散を狙うというのも効果的です。
不採算の事業は思い切って切り離し、補助金を活用して将来性の高い新分野の事業に挑戦する。こうした事業再構築も財務の安定化や向上につながる可能性を秘めており、税負担に備える一手だといえます。
まとめ
今回は、2024年以降に実施されるであろう法人税の増税における背景や増税案、増税によって中小企業が受けると考えられる影響や対策方法いついて解説しました。
現在検討されている増税案は、4〜4.5%の付加税を課すというもの。年間所得が2,400万円以下の中小企業は対象外となる、それ以上の年間所得がある中小企業は500万円が控除されるという措置が取られることが検討されているものの、やはり法人税の増税については、規模を問わずすべての企業が何らかの対策を備えておくべきだといえます。
ただし、法人税増税の対象となるからといって焦ったり不安になる必要はないでしょう。現在と今後の財務状況をはじめとした多岐にわたる要因を分析・考慮に入れながら、自社にとって最適な税金対応策を講じていきたいものです。