新型コロナウイルスの感染症拡大から早3年以上が経過しましたが、いまだに根絶にはいたっておらず、現在では「第8波」と呼ばれる流行期に突入しています。
しかし、拡大当初から段階的に設けられてきた行動制限をはじめとする様々な規制は徐々に緩和されており、個人や企業を問わず、コロナ禍以前の平時と変わらない生活や活動を取り戻しつつあるように見受けられます。
マスクを着用する人の姿はまだ目立つものの、街には複数人で連れ立って歩く人々や外国人旅行客が戻ってきました。
企業活動に目を向けると、出社制限を取りやめた企業が数多く存在するほか、飲食業や観光業といったコロナの影響を大きく受けた業種にも活気が見られるようになっています。
急速な物価高騰という新たな困難に直面しているとはいえ、新型コロナ禍以前のような活動を取り戻せることは、すべての企業にとって大きな一歩だといえるのではないでしょうか。
その一方で、一部の企業にとっては素直に喜べない問題も生じています。
それが、実質無担保・無利子の新型コロナ関連融資、いわゆる「ゼロゼロ融資」の返済です。
実際に、新型コロナ禍での生き残りと発展を図る目的で、この「ゼロゼロ融資」を受けたにも関わらず、のちに重荷となって結果的に倒産を招く要因となるケースが上昇傾向にあります。
では、どうして「ゼロゼロ融資」の返済が、倒産の要因にまでなるのでしょうか。今回は、その理由について考えていきたいと思います。
「ゼロゼロ融資」の概要をおさらい
ここであらためて「ゼロゼロ融資」の概要について、振り返ってみましょう。
「ゼロゼロ融資」は、新型コロナ流行の影響によって売上が減少した企業の資金調達を支援する目的で開始された、実質無担保無利子の融資制度です。
当初は、日本政策金融公庫や商工組合中央金庫といった政府系金融機関が、当該融資を行っていましたが、2020年5月に民間金融機関が提供を開始すると同時に利用企業が大幅に増加しました。
利子は各都道府県が補給するほか、仮に返済に遅れが生じたとしても、信用保証協会が元本の8割または全額を肩代わりするというのが基本的な仕組み。元本に関しては、最長で5年間の返済免除が認められる点も資金に窮した企業にとっては大きなメリットとよべるものでした。
今年からゼロゼロ融資の返済が開始した企業が多数
申し込み時に最長5年の据置期間を設定可能とはいえ、利用企業の多くが設定した期間は2年以下。
2020年5月に開始された制度であるため、2年以下に設定した企業は2022年の現在において、すでに返済が始まっていることになります。
しかし、返済期に入った企業の中には元本の捻出が難しく、返済に滞りが生じるケースが顕著に。
おそらく、融資から2年以内に経営の建て直しまたは事業拡大を図ったうえで、元本返済に備えようと計画した企業が多くあったものと思われますが、結果的に思い通りの計画を達成できていない企業が少なくないのが現状だといえます。
昨今続く物価高騰がさらなる重荷に
さらに加重となったのが、ここ最近の物価高高騰でしょう。
ロシアのウクライナ侵攻、さらには急速に進んだ円安に伴う物価高騰は、「ゼロゼロ融資」の申請時において、ほとんどの企業が予測していなかった事態でした。
業種によって様々ではあるものの、製造や仕入れなどの事業にかかるコストの上昇は想像以上に経営を圧迫する要因となっています。この影響から当初の返済計画が大きく狂った企業も多いことでしょう。
いまだコロナで疲弊した経営の立て直しにいたっておらず、元本の捻出が容易にいかない現状の中で、さらに支出額が増加するとなれば、経営をさらに圧迫し、返済が困難に陥るのは必然。
最終的に、やむなく倒産の決断に至る企業が急増するのも無理はない状況が続いているのは確かといえるでしょう。
「ゼロゼロ融資」が企業へ与えた恩恵と今後の課題
昨年、一昨年に比べてジワジワと倒産件数が上昇を続けている現在。
新型コロナの影響によって事業の停滞が生まれた企業でも経営を続けてこられたのは、「ゼロゼロ融資」の恩恵に預かったケースであることは明確だといえます。
そうしてギリギリのラインで経営を保ってきた企業であっても、昨今の「物価高騰」などが重なったうえでの「経営計画の破綻」が要因となって収益力の回復には至れず、いよいよ体力の限界を迎えつつあるわけです。
ただし、政府や自治体も「ゼロゼロ融資」の返済が困難に陥った企業に対する出口対応に向け、様々な動きを見せはじめています。
たとえば、一部の自治体では「ゼロゼロ融資」の借り換え専用制度を創設。東京都では、15年の融資期間と5年以内の据え置き期間、さらには8一千万円までの融資であれば、東京都が信用保証料の全額を補助する制度を開始しています。
とはいえ、ここから先は「ゼロゼロ融資」の返済が開始される企業が徐々に増加し、それに伴い倒産件数はさらに上昇することが見込まれています。
平時の活動はようやく取り戻しつつものの、企業が新型コロナで受けた傷跡の修復についてはまさにこれからが本番なのではないでしょうか。