新型コロナウイルス感染症拡大にともない、政府や自治体はこれまで主に中小企業や個人事業主の資金面をサポートする様々な支援策を実施してきました。
持続化給付金、無利子無担保融資、新型コロナ特例の雇用助成金など、これらの支援策は、新型コロナの影響を受けた企業をはじめとする各事業者の事業継続の糧となったほか、全国の企業倒産件数が昨年7月をピークに減少傾向になるなど、一定の成果をみせたものといえます。
そして、今月からは中小企業や中堅企業等を対象に新たな支援策の実施がスタートしています。
それが事業再構築補助金です。
事業再構築補助金は、「中小企業等のさらなる発展を促すための補助金」です。これまでの支援策が、いわば事業を守る守備的な支援策であったのに対し、事業再構築補助金は資金を投じて、中小企業等が事業の転換や再編、拡大を通した新たなチャレンジに踏み切れるようサポートする、攻撃的な支援策であるといえます。
新型コロナの感染症拡大の影響をきっかけに、事業の転換や再編、拡大を考えられた事業主の方は数多くおられるのではないでしょうか。しかし、たとえ各支援金や融資を受給できても、事業継続に精一杯であり、なかなか踏み切れなかったという事業主の方も少なくないはずです。
今回実施される事業再構築補助金に計上された予算は1兆1485円。最大補助額は1億円であり、これまで事業の転換や再編、拡大を躊躇してきた中企業等の資金調達を大幅にサポートできるものであると期待が高まっています。
ただ、支援対象をはじめとする申請要件がこれまでの支援策と比べてもかなり複雑であり、受給のハードルが高すぎるという懸念の声も挙がっているようです。
今回は、経済産業省が発表した概要や指針を参照しながら、事業再構築補助金とはどのような支援策であるかを解説していきます。
参照資料
経済産業 事業再構築補助金の概要 同 事業再構築指針の手引き |
目次
事業再構築補助金とは?
事業再構築補助金は前述した通り、新型コロナの影響下で売上が減少した中小企業等の事業者に対して、新分野展開や、事業や業種の転換・拡大、事業再編といった事業再構築のための資金を補助する支援策です。
補助金であるため、申請すれば必ず支給されるものではなく、申請にあたっては審査が必要であり、合理的で説得力のある事業計画の提出が求められます。
対象事業者
事業再構築補助金の対象となる事業者は、中小企業、中堅企業、個人事業主、企業組合等です。
では、事業再構築補助金における中小企業や中堅企業の範囲はどのように定められているのでしょうか。
中小企業の範囲
中小企業の範囲は、中小企業法に基づいた範囲となります。また個人事業主も同様の範囲に含まれます。
・製造業その他:資本金3億円以下の会社または従業員数300人以下の会社及び個人
・卸売業:資本金1億円以下の会社または従業員数100人以下の会社及び個人 ・小売業:資本金5千万円以下の会社または従業員数50人以下の会社及び個人 ・サービス業:資本金5千万円以下の会社または従業員数100人以下の会社及び個人 |
中堅企業の範囲
・中小企業法で定められた中小企業者に該当しない企業 ・資本金や出資額の総額が10億円未満の企業 ・従業員数1000人以下の企業(資本金や出資額の総額が定められていない場合) |
申請要件
申請可能となる事業者は、主に以下のような要件を満たしている必要があります。
1.売上の減少
申請前の直近6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月の合計売上高が、2019年または2020年1月〜3月の同時期の合計売上高より10%以上減少していること。
2.事業再構築の実施
新分野展開、業務転換、事業や業種転換といった事業再構築を実施する企業
3.事業計画を認定経営革新等支援機関や金融機関とともに策定
事業再構築のための事業計画の策定にあたっては、基本的に認定経営革新等支援機関の協力が必要となります。また、補助金額が3000万円を超える場合は、銀行や信用機関などの金融機関の協力も求められます。
補助事業終了から3〜5年で、付加価値額(営業利益・人件費・減価償却費の合計)もしくは従業員1人あたりの付加価値額の年率平均が3.0%以上の増加する事業計画の策定(グローバルV時回復枠は5.0%以上)。
支援対象となる事業再構築の類型
支援対象となる事業再構築には以下の5つの類型があり、いずれかひとつに該当する事業計画を策定する必要があります。
・新分野展開 ・事業転換 ・業種転換 ・業態転換 ・事業再編 |
また、上記5つの類型に加え、2つの特別枠も用意されています。
・中小企業卒業枠 ・中堅企業グローバルV時回復枠 |
では、それぞれの定義を確認していきましょう。
新分野展開
新聞や展開は、業種や事業を変更せずに新たな製品やサービスをつくり、新たな市場に進出することです。
新分野展開に該当するのは、「製品等の新規性要件」「市場の新規性要件」「売上高10%要件」を満たす事業です。
「製品等の新規性要件」とは、「過去に自社での製造などの実績がない製品等」「製造に必要な新たな設備導入」「市場に多く出回る既存製品などではないこと」「定量的に性能や効能が異なること(計測できる場合)」の4つの要件をすべて満たすことを指します。
「市場の新規性要件」とは、「既存製品などと新製品等の代替性が低く、双方の売上を大きく減少させないこと」「双方の顧客性が異なること(任意)」を指します。
「売上高10%要件」は、3〜5年の事業計画期間の終了後に新製品等の売上高が総売上高の10%以上となる計画の策定です。
事業転換
事業転換は、業種はそのままに新たな製品等を製造するなどして事業を変更することです。
事業転換に該当するのは、「製品等の新規性要件」「市場の新規性要件」「売上高構成比要件」の3つをすべて満たす事業です。
3つのうち「製品等の新規性要件」「市場の新規性要件」については、「新分野展開」における2つと同様の定義です。
「売上構成比要件」は、3〜5年の事業計画期間の終了後に新製品等が属する事業が売上構成比の最も高い事業となる計画の策定です。
業種転換
業種転換は、新たな製品等を製造するなどして業種を変更することです。
事業転換に該当するには、事業転換と同様に「製品等の新規性要件」「市場の新規性要件」「売上高構成比要件」の3つをすべて満たす必要があります。
業態転換
業態転換は、業種や事業はそのままに製品等の製造方法などを変更することです。
業態転換に該当するには、「製造方法等の新規性要件」、「売上高構成比要件」と「製造方法等の新規性要件」か「設備撤去等またはデジタル活用要件」のいずれか1つを加えた3つをすべて満たす必要があります。
「製造方法等の新規性要件」とは、「過去とは異なる方法で製品等を製造すること」「新たな製造方法に必要な新たな設備への変更」「競合他社の多くが行なっている製造方法とは異なる製造方法であること」「定量的に性能や効能が異なること(計測できる場合)」4つの要件をすべて満たすことを指します。
また、「設備撤去等またはデジタル活用要件」は、「既存設備の撤去または既存店舗の縮小を伴うもの」や「非対面化や無人化・自動化など、デジタル技術を用いた業態への変換」を指します。
事業再編
事業再編は、組織改編等によって新たな事業形態を確立したうえで、新分野展開・事業展開・業種転換・業態転換のいずれかを行うことです。
事業再編に該当するには、「組織再編要件」または「その他の事業再構築要件」の2つを満たす必要があります。
「組織再編要件」は、会社法に基づく合併・会社分割・株式交換・株式移転・事業譲渡、「その他の事業再構築要件」とは、新分野展開・事業展開・業種転換・業態転換のことを指します。
中小企業卒業枠
中小企業卒業枠とは、中小企業等が事業再構築によって資本金や従業員数を増加させ、事業計画期間内に中堅企業や大企業へとステップアップするための特別支援策です。
申請するには、新分野展開・事業展開・業種転換・業態転換のいずれかに加えて、「事業再編」、「新規設備投資要件」、「グローバル展開要件」のいずれかを満たす必要があります。
「事業再編」は上記で解説した「組織再編要件」と同様です。
「新規設備投資要件」は、中小企業卒業枠による補助金額の上乗せ分の3分の1以上の金額を新たな施設や設備、装置やプログラムへの投資することです。
「グローバル展開要件」は、その名の通り事業のグローバル化を進めるものであり「海外直接投資」「海外市場開拓」「インバウンド市場開拓」「海外事業者との共同事業」のいずれかひとつを事業計画に含めるものです。
中堅企業グローバルV時回復枠
中堅企業グローバルV時回復枠は、新型コロナの影響によって事業に大きなダメージを受けた中堅企業を対象に、売上の回復をサポートする支援策です。
申請するには、通常枠の要件とグローバル展開要件の両方を満たす必要があります。
補助額と補助率
中小企業
通常枠:補助額 100万円〜6000万円 補助率:3分の2 卒業枠(400社限定):補助額6000万円超〜1億円 補助率:3分の2 |
中堅企業
通常枠:補助額 100万円〜8000万円 補助率:2分の1(4000万円超は3分の1 グローバルV字枠(100社限定):補助額 8000万円〜1億円 補助率:2分の1 |
補助対象となる経費
事業再構築補助金は、基本的に事業再構築にともなう新たな設備の投資費用を補助する支援策ですので、対象となるのは設備費のほか、建物の建設費や改修費、撤去費、システム購入費、リース費、技術購入費、設計や加工に必要な外注費などとなります。
また、新事業開始にかかる広告費や販売促進費、研修費、なども補助の対象となります。
一方で、通信費や消耗品費、人件費やパソコンなどの汎用品の購入費などは補助の対象外となります。
申請にあたっての注意点
・本制度は補助金制度ですので、受給は事業者の各経費の支払い確認後に行われます(概算払制度の設置予定)。
・交付決定から開始される補助事業期間(1年程度)の終了後5年間は、経営状況などの年次報告が必須となります。
・設備の購入など(補助事業の着手)は、原則交付決定後に行うことになりますが、事前着手申請の提出によって令和3年2月15日以降に購入した設備等も補助対象とる場合があります。
・申請にあたっては、事業計画書の提出と審査が必須となりますが、非常に複雑な制度であり、綿密かつ優秀な事業計画の策定も必要となるため、必ず中小企業を支援する認定経営革新等支援機関(経済産業大臣が認定した支援団体・税理士・中小企業診断士など)によるサポートを受けるべきだといえます。
・申請は、電子システムであるjGrantsで行います。当システムの利用にあたってはGビズIDプライムアカウントの発行が必要であり、発行までには2~3週間を要する場合があるため、早めの取得がおすすめです。
公募は現在受付中(3月29日現在)
第1回目の公募は3月26日からすでにスタートしています。申請の締め切りはGW頃と予想されています。
年に数回の公募が予定されていますが、申請数が多いほど早めに打ち切られる可能性が高いため、申請を検討するのであればなるべく早めに認定経営革新等支援機関に相談するようにしましょう。
まとめ
中小企業や中堅企業等の新たなチャレンジを支援する事業再構築補助金ですが、ご覧いただいた通り、複雑な制度かつ受給のハードルも従来の設備投資系の補助金に比べて高いことがうかがえたかと思います。
それでも、最大1億円という高額な資金を調達できるという点は、新型コロナの影響を契機に再起や発展を図りたい事業者にとっては大きな力になるのは確かです。
すでに公募は開始されていますので、申請を検討する事業者様は経済産業省が発表した概要や手引きも併せて確認し、入念に準備を進めていきましょう。