依然として新型コロナの感染症拡大が収束する見通しが立たない中、9月16日に安倍内閣が総辞職。同日には、官房長官として長きにわたり安倍首相を支えた菅義偉氏が新たな内閣総理大臣に就任しました。
新型コロナ関連の対策や措置はもちろんのこと、東京オリンピック・パラリンピック開催の是非や日韓関係の悪化など、様々な課題が山積みとなっている国内情勢や対外関係をいかに改善に導けるかに注目が集まります。
中でも、多くの事業主の方が関心を寄せるのが今後の経営を左右することになる経済政策や金融政策なのではないでしょうか。
新型コロナの国内蔓延が顕著となり、緊急事態宣言の発出に伴う営業自粛要請などの政策が全国各地で経済活動に大打撃を与えた4月〜6月のGDPは前期比年率27.8%縮小。
政府や自治体が様々な経済支援策を打ち出したものの、「戦後最悪の不況」とも呼ばれた景気後退は、あらゆる業種の企業を倒産へと追い込むなど厳しい経済情勢が続いてきました。
国内新規感染者数が大幅に減少しているとは言えないものの、規制は徐々に緩和され、企業の経済活動が再び活発化し始めた矢先の政権交代は、今後の経済情勢にどう影響するのでしょうか。
そんな中、菅内閣が発足した翌日の17日には、その指標ともいえるひとつの方針を日本銀行が発表しました。
それが「大規模金融緩和の維持」です。
安倍政権が打ち出した経済政策「アベノミクス」の代名詞ともいえる「大胆な金融緩和」ですが、今年の3月にも新型コロナによる景気悪化を懸念したことで追加の実施が決定されていました。
これを新政権下でも景気刺激策として引き続き実行することにより、厳しい状態にある現状の経済の立て直しを図ろうとする狙いがあるようです。
では、この「大規模金融緩和の維持」は、今後の日本経済にどのような影響を与えるのか考えてみたいと思います。
そもそも「金融緩和」とは何か
「大規模金融緩和の維持」が日本経済に与える影響を考える前に、まずは金融緩和がどのような政策なのかを確認しておきましょう。
「金融緩和政策」とも呼ばれる金融緩和とは、中央銀行(日本では日本銀行)が金利を引き下げて個人や企業がお金を借りやすくしたり、国債や社債の積極的な買い入れといった市場への資金供給を通して、通貨供給量の増加を促進し景気の向上を図る金融政策です。
日本では、日銀が長期金利を0%に、短期金利をマイナスとし、国債を上限なく買い入れるという金融緩和政策、すなわち「大規模な金融緩和」が継続して進められていくことが決定しています。
金融緩和がもたらす効果
日銀が金利を引き下げれば、銀行をはじめとする各金融機関も低い金利で資金を調達できるようになるため、個人や企業も金利を抑えて借り入れすることが可能になります。
また、国債のほか、ETF(上場投資信託)、J-REIT(不動産投資信託)の買い入れ、さらには企業が発行する社債を日銀が積極的に買い入れることによって、市場や企業に資金を流入させることができます。
そうなれば、企業は低リスクで運転資金や設備投資費の調達が可能となりますし、住宅ローンや自動車ローンの利用などといった個人の大規模な消費行動の活発化にも期待できることになるわけです。
つまり、経済の低迷によって市場の資金不足が発生し、十分な経済活動や消費活動が困難に陥っている現状において、金融緩和は経済再生のための理想的な金融政策と呼べることになります。
大規模金融緩和の維持の問題
企業の資金調達促進に大きくつながるといえる「大規模金融緩和の維持」。
理想的に機能すれば低迷する経済を再生させるための有効的な金融政策であることは確かですが、現実はどうなのでしょう。
日銀は国債の買い入れを「年間80兆円をめど」とした取り決めを改め、「上限なく買い入れる」ことを発表しています。最近は金融緩和によって金利が低く安定しているとはいえ、今後も政府主導による経済支援策が続けられることが求められるのは確かであり、自ずと国債の発行は増加することになるでしょう。
増加し続ける国債を投資家が買いきれなくなれば、政府が高い利息を約束して日銀に買い取ってもらう必要が生じる可能性もあり、結果として金利の上昇につながりかねません。
また、金融緩和が功を奏して企業や個人の資金力を上昇させ、景気の立て直しに成功したとしても、新型コロナが収束したアフターコロナの世界では、溢れ出た国債によってもたらされたお金が市中に出回り、激しいインフレを引き起こすという懸念もあるでしょう。
「大規模金融緩和の維持」が、現状の低迷する日本経済再生のためのカンフル剤となる期待がありつつも、アフターコロナを迎えて経済が安定した先に待ち受ける金利上昇やインフレに対する不安が生じることも確かです。
今後は、「大規模金融緩和」の維持とともに、目先の景気回復のみに捉われない長期的な経済安定につながるような新たな金融政策の打ち出しにも期待したいものです。