経営者・社長

変わる働き方〜副業容認の流れと本業との関係〜

変わる働き方〜副業容認の流れと本業との関係〜【経営者・社長】

かつては「本業がおろそかになる」「企業秘密情報の漏洩防止」などの観点から、日本企業の多くが就業規則にて禁じていた副業。中でも正規雇用労働者は、比較的「掛け持ち」が容認されやすいアルバイトやパートといった非正規雇用労働者とは逆に、副業を固く禁じられる風潮がありました。

しかし昨今における労働者の生活スタイルや社会の変化とともに、働き方の多様性が求められるようになったこと、さらには2018年に厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」をまとめたことや「モデル就業規則」から「副業禁止の規定」を削除したことなどが追い風となり、副業を解禁する企業が増加傾向にあります。

また、今年は新型コロナウイルスの感染拡大によって収入減や休業に追い込まれた労働者が増加したことにより、副業のニーズはさらに高まりをみせているようです。

副業解禁の動きは、単に従業員の収入アップにつながるだけでなく、従業員が本業以外に興味のある業界での仕事に臨めるほか、趣味や特技、独自のスキルを活かした仕事にもチャレンジできるなど、まさに憲法第22条で定められた「職業選択の自由」を本当の意味で実現化する流れだといえます。

加えて、少子高齢化によって労働人口が減少している業種や、飲食業や小売店などの慢性的な人手不足に悩まされる業種にとっては、人手の確保にも期待できるため、特に人口減少が顕著となっている地方では経済の活性化につながる可能性も高まることでしょう。

このように、いまや国をあげて推進の流れにある労働者の「副業」ですが、企業が副業を解禁することによって企業と従業員双方にはどのようなメリットやデメリットが生じるのか。また、副業の増加によって生じる問題点などはあるのでしょうか。

副業とは?

副業とは?

そもそも副業とはどのような働き方を指すのでしょうか。

副業は、正規雇用や非正規雇用を問わず本業として企業や団体などに所属する従業員が、本業に携わりながらも別の仕事に就くという働き方です。もちろん組織に所属していないフリーランスや個人事業主が本業以外の仕事を行うことも副業です。

副業を行うには、原則として本業の所属先と副業先の双方が副業を容認している必要があり、副業を行う旨を届けるといった手続きが求められる場合があります。

また最近では、インターネットを活用して自らが案件を獲得して仕事を進めるクラウドソーシングの普及などもあり、別の所属先をわざわざ探す必要もなく、簡単に副業を始められる仕組みが整っています。

被雇用者が副業をする際のルール

被雇用者が副業をする際のルール

就業時間が決められていないフリーランスや個人事業主が副業をする場合は、いつ副業を開始しても何の問題もありません。

しかし被雇用者の場合は、副業を容認する多くの企業や団体が、あくまで本業を優先させることを原則としている場合がほとんどであるため、副業をするのであれば必然的に本業終業後や始業前、もしくは休業日となります。

また、同業他社や性風俗業など特定の業種を副業に選ぶことは禁じているという企業や団体も多々存在します。

副業の種類

副業の種類

どのような仕事や職業が副業になるのかという決まりはありません。本業としてどこかしらの企業や団体などの属しながらも、別の仕事を行えばそれが副業となります。

中でも就業シフトを自由に決めやすい飲食店や小売業などは、本業の始業前や終業後であっても時間の融通がききやすいことから、最も身近な副業といえます。

また、ブログサイトの記事作成のほか、デザイン制作やイラストの作成、コーディングやシステムの構築など、クラウドソーシングの利用によるクリエイティブな作業も人気の高い副業のひとつです。

自主制作した商品やサービスの販売や、YouTubeなどの動画サイトを利用した動画投稿による収益化なども、近年注目度の高い副業となっています。

このように、副業を始めることで自身のスキルや趣味を活かして本業とはまったく関係のない分野に活躍の場を広げる人が増えているのです。

副業容認によるメリットとデメリット

副業容認によるメリットとデメリット

本業だけにとらわれることなく、仕事の選択肢が拡がることによって働き方の多様化につながる副業。

では、副業を容認・開始することで企業や団体、そして従業員にはどのようなメリットやデメリットが生じるのか考えてみましょう。

企業や団体のメリット

・ 従業員が副業で培ったスキルや知識・経験を自社の業務にも活かせる可能性があり、組織や事業の質の向上に期待できる。

・ 副業容認の企業として知名度が上がることで、マルチな能力を持つ優秀な人材の確保につながる

従業員のメリット

・ 収入が増加するため、生活水準の上昇や趣味などへの投資額が増やせる

・ 副業で刺激や楽しみを得ることにより、本業に対するストレスや不満の緩和につながる

・ 本業という“保険”があることで無理なく新たな挑戦に臨める

・ 本業以外でのスキルや経験を得られることで主体的なキャリア形成につながる

企業や団体のデメリット

・ 本業以上の収入増加や、やりがいを得られるようになると、退職や独立などにより人材が流出する可能性がある。

企業機密事項が漏洩する恐れ

・ 従業員の本業に対するモチベーションが下がることで事業へ支障を与える可能性

従業員のデメリット

・ 労働時間の増加にともなう慢性的な疲労の蓄積

・ 本業への興味関心の薄れによるモチベーションや集中力の低下により、昇給のチャンスを失う可能性

企業や団体が副業を容認することでより多くのメリットを得られるのは、やはり従業員の方ではないかと思われます。副業を開始すれば、収入の増加が見込めることはいうまでもなく、様々な経験やスキルを得られることで主体的なキャリア形成にもつながります。

その反面、本業へのモチベーションが低下して結果に繋がらなくなれば、副業の禁止や減給、最悪の場合は解雇に至る可能性があることもあるでしょう。

一方、企業にとっての最大のメリットは、従業員が副業によって身につけた経験やスキルを本業でも活かせられれば、自社の成長促進にも期待できるという点です。

ただし、従業員が副業で大きな成果や、やりがいを感じられるようになると、他社への流出や独立などによって貴重な人材を失う可能性が生じかねません。

副業の増加と生じる問題点

副業の増加と生じる問題点

政府が進める働き方改革の一環としての副業推進を意味する、2018年の厚生労働省による「副業・兼業の促進に関するガイドライン」や「モデル就業規則」からの「副業禁止の規定」削除、さらには昨今の新型コロナウイルスの影響により副業ニーズは急速に高まりをみせています。

このような流れを汲み、多くの企業や団体が副業解禁に踏み切るなか、大きな問題として浮上していたのが、「労働時間の扱い」です。

本業と副業の労働時間を別々に労働基準法に当てはめれば、法定労働時間を大きく超える可能性があり、「残業」にあたる時間外労働をどう取り扱うのか。また、労働時間が延びることで発生する割増賃金の取り扱いをどうするのかといった議論が重ねられてきました。

その結果、労働政策審議会が労働時間の取り扱いについては、長時間労働の防止を目的として本業と副業を合算すると決定。

それについて、今年の7月24日付けの東京新聞の記事の中に、このようなQ&Aが記載されていました。

Q 新型コロナウイルスの感染拡大によって、副業のニーズが高まったようですが。

A 収入減や休業に追い込まれ、生活のために副業を始める人が増えています。パソコンを使った「テレワーク」の普及により、通勤していた時間を自由に使えたり、ネットを通じて仕事を請け負う「クラウドワーク」をしやすくなったのも一因です。

Q なぜ労働時間の合算方式が議論の対象になっていたのでしょうか。

A 労働基準法は法定労働時間を1日8時間、週40時間と定めています。仮に本業と副業の労働時間を合算せず別々に規制を当てはめると、1日の法定労働時間は最大16時間に延び、働き方改革で定めた「時間外労働の上限規制」と矛盾します。副業推進が長時間労働を助長するのは本末転倒です。

Q 合算方式で落ち着いて良かったですね。

A 課題は残ります。法定労働時間を超えた時間外労働(残業)に対して、雇用主は割増賃金(25%以上)を支払わなければなりません。時間外労働が発生しやすいのは、雇用契約を後で結んだ方、すなわち副業先です。だから、副業先の企業は雇用契約を結ばずに仕事を頼む業務請負を増やす懸念があります。実際、企業から単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」が、今年上半期だけで100万人増えたという調査結果もあります。

Q どのような改善策が考えられますか。

A 業務請負でも、指揮や命令をして働かせたら雇用者責任を負わせるべきだという意見があります。また、業務請負には労基法の最低賃金が適用されませんが、下請法などを参考に報酬の下限を設けるべきだとの声も強まっています。

引用元 東京新聞tokyo-np.co.jp/article/39726

法定労働時間の合算が決定したことにより、本業と副業の労働時間は合わせて1日8時間、週に16時間となります。ただし、副業を行うことはかなりの確率で8時間を超過することになるため、雇用主にとっては時間外労働となる分の割増賃金の負担増加が懸念されています。

多くの場合、副業は本業就業後に開始されます。したがって、割増賃金を負担せざるをえない副業としての雇用契約は、なるべく避けたいと考える雇用主が増加する可能性も考えられるといえるでしょう。

収入増加やキャリア形成も見込めることでニーズが高まる副業ですが、本業先・副業先を問わず、雇用主にとっては「自社に対する不利益発生の可能性」や「労働時間の管理・支払い賃金の負担」などまだまだ課題が多いのが実情です。

今後も、副業に対する新たなガイドラインや法制定が行われるのか注目していきましょう。