魅力的に事業を考案したことにより、「起業したい」と考える人は少なくありませんが、その前途において大きな壁となるのが資金調達です。
日本は起業のハードルが高いと言われますが、実際に欧米諸国と比較すると開業率は低く、その理由としては「自己資金の不足」が最も高いという調査結果もあります。
だからといって、日本に起業家の資金調達を支援する制度が不足しているというわけではありません。むしろ、昨今では国や自治体も積極的な起業支援策を実施している傾向にあり、資金調達は決して難しいものではなくなっています。
では、どうしてそれでも起業を目指しながらも、資金調達に不安を抱える人が多いのか。
それは、そもそも起業時の資金調達手段にどのようなものがあるか分からない、もしくは、どの制度であれば自身の起業に適用できるのかが分からないといった理由があるからではないでしょうか。
そこで今回は、起業時に役立つ資金調達手段をまとめてご紹介します。
これから起業を考えている、または資金調達手段に不安があり起業をためらっているという人はぜひ参考にしてみてください。
目次
起業時に役立つ3つの資金調達手段
起業時に役立つ資金調達手段は大きく分けて3つあります。
それが「融資」「補助金・助成金」「支援金」です。
ひとつずつどのような制度や特徴があるかみていきましょう。
1. 融資
融資とは資金の借り入れのこと。端的にいってしまえば「借金」です。
借金と聞くと、消費者金融や得体のしれないビジンスローンのような、あまりいいイメージが湧くものではありませんが、起業時に受ける融資はこういった民間の金融サービスではありません。
もちろん、消費者金融で個人的に借り入れを行なって、その資金を起業に充てることも可能ですが、利息が高いことや借入限度額も数十万円ほどの少額になる可能性もあり、あまりメリットは高くないでしょう。
また、ビジネスローンはおろか民間の銀行や信用金庫といった金融機関は、起業者向けの融資を提供しているところはありますが、ビジネローン会社の利息は高く、銀行や信用金庫の融資は審査のハードルが高いため、完成度の高い事業計画が立てられなければ利用は難しいものです。
では、起業に最適な融資とはどのようなものなのでしょうか。
それが、財務省が管轄する日本政策金融公庫や地方自治体、あるいは信用保証協会との連携による公的な融資制度です。
一例を挙げると、「新創業融資」や「新規開業資金」それに各地自体の制度融資がありますが、これらの大きな利点は民間の銀行や信用金庫の融資に比べると、審査通過のハードルが低いという点。
また、無担保や無保証で資金を借り入れできる融資制度もあります。
あくまでも融資ですので、当然のことながら返済の必要はありますが、まだ実績のない起業家にとっては心強い資金調達手段であることは確かです。
2. 補助金・助成金
2つめは補助金と助成金です。
補助金は主に厚生労働省や地方自治体、助成金は主に経済産業省や地方地自体によって支給される資金であり、財源となるのは公的な資金。つまり税金です。
補助金と助成金に共通する利点といえば、やはり原則として“返済不要”の資金であるということです。
融資のように利息を伴う返済の必要がないため、返済を念頭に置いた資金繰りをする必要はありませんし、万が一事業に失敗して大きな負債を抱えてしまった場合であっても、困ることはありません。
補助金も助成金も、受給するためには申請だけでなく、制度によっては審査や一定の資格や条件を満たす必要があるほか、両者の仕組みや特徴は少々異なる点もあります。
助成金は、受給できる金額こそ数十万円ほどのものが多いですが、基本的には制度の実施期間中は申請可能であり、申請させ通れば受給が可能です。
一方の補助金は、助成金よりも受給可能な金額が高い制度が複数あるものの、そのほとんどが採択予定件数の定められている制度であり、公募期間も1ヶ月ほどと短いという特徴があります。
また、支給にあたっては審査に通過しなければならず、たとえ採択予定件数に達していなくても、要件次第では受給できませんので注意が必要です。
3. 支援金
3つめは支援金です。
本来、支援金とは、災害の発生をはじめとした有事に際して国や自治体から支払われるお金です。
最近でいえば、新型コロナウイルスの感染症拡大にともない、生活や事業を支える目的で様々な支援金の制度が実施されたことも記憶に新しいものです。
そんな支援金ですが、実は「起業支援金」と呼ばれる、起業を支援する目的の制度もあるのです。
交付する機関は主に国や地方自治体。受給できる金額は、要件に応じて数十万円から数百万円まで様々であり、返済はもちろん原則不要です。
また、受給が決定すると、相談員が定期的に訪問などを行い事業の立ち上げから経営の安定に向けた支援を受けられるなど、資金調達だけに限らないサポートが受けられることもあります。
起業家に役立つ資金調達制度
では、ここからは起業時や起業後間もない時期に役立つ資金調達制度を具体的にみていきましょう。
・ 新規開業資金
まずは「新規開業資金」です。
「新規開業資金」は、日本政策金融公庫が実施する融資制度であり、利用対象となるのは、新たに事業を開始する人、もしくは事業開始からおおむね7年以内の人となります。
融資限度額は7,200万円、そのうち運転資金は4,800万円。返済期間については、設備資金は20年以内(据置期間2年以内)、運転資金は7年以内(据え置き期間2年以内)となります。
担保や保証人については要相談となりますが、金利は2.03%〜3.15%ですので、事業開始後に返済が大きな負担となることもないでしょう。
・女性・若者/シニア起業家支援資金
女性・若者/シニア起業家支援資金はその名の通り、女性や若い起業家、さらにはシニアの起業家を応援する融資制度です。
実施する機関は、「新規開業資金」と同じく日本政策金融公庫。利用対象となるのは、女性のほか、35歳未満か55歳以上の新たに事業を始める人や事業開始から7年以内の人となります。
融資限度額は7,200万円、そのうち運転資金は4,800万円です。返済期間は設備資金で20年以内(据置期間2年以内)、運転資金は7年以内(据え置き期間2年以内)ですので、融資限度額、返済期間ともに「新規開業資金」と同等となります。
一方で、「女性・若者/シニア起業家支援資金」は「新規開業資金」よりも金利が低い点が大きなポイント。1.63%〜2.75%という低金利ですので、「新規開業資金」よりも低リスクで起業資金を得られます。
・ 新創業融資制度
こちらも先述の2つの制度と同じく日本政策金融公庫が実施しています。
「新規開業資金」と混同しそうになる制度ですが、両者はまったく別の制度。たとえば、新たに事業を開始する人が利用対象となる点は同じですが、「新創業融資制度」は、事業開始後税務申告を2期終えていない人も対象となります。
融資限度額は、3,000万円でそのうち運転資金は1,500万円。「新規開業資金」に比べると低いことがわかります。また、金利についても2.33%〜3.45%であるため、若干ではありますが高金利となります。
一方で、「新規開業資金」では担保や保証人が要相談であったのに対し、「新創業融資制度」は原則不要。融資限度額が低く、金利は上がるものの、「新規開業資金」に比べると、利用しやすい制度だといえるのではないでしょうか。
・ 創業助成金
起業家に向けた助成金が創業助成金です。
現在では、国による創業助成金の実施は廃止されていますが、多くの地方自治体では引き続き行われています。
たとえば東京都の創業助成金であれば、助成限度額は上限300万円、下限100万円。対象となるのは、東京都内で起業する人や事業開始から5年未満の個人事業主や法人です。
助成対象となる経費は、賃借料、広告費、器具備品購入費、産業財産権出願・導入費、専門家指導費、従業員人件費などで、助成率はこれらの経費の3分の2以内となります。
先に紹介した融資に比べると大きな金額を調達することはできませんが、比較的受給しやすい助成金であるのはもとより、年に数回にわたって受付がされているため、非常に利用しやすい資金調達手段だといえます。
・ 地域中小企業応援ファンド(スタート・アップ応援型)
地域中小企業応援ファンドとは、中小機構や各地方公共団体、それに金融機関の共同出資によって組成されるファンドです。
各都道府県の中小企業支援期間が運用するという特性上、利用の対象となるのは、各地域の活性化につながる事業を展開する起業家。たとえば、起業地の農林水産物や伝統技術を活かした商品開発や販路開拓といった事業の立ち上げや展開を支援します。
助成金であるため、返済はもちろん原則不要。また、昨今では地域に特化し、その活性化を目指した事業は金融機関からの評価も上昇する可能性が高いため、 将来的に金融機関の融資を受けたいと考える人は、まずはこちらの制度を活用して事業を軌道に乗せるのも一手だといえるでしょう。
まとめ
今回は、これから新たに事業を開始しようとする人に最適な資金調達手段と、その制度を厳選して紹介しました。
起業家にとって資金調達は最初にぶつかる大きなハードルになりがちですが、国や各自治体では、ここで紹介したもの以外にも様々な支援策を実施しています。
確かに申請は複雑そうですし、実際に資金を受給するまでにはいくつかの関門を突破しなければなりません。
ですが、それらを乗り越えれば起業に必要な資金を確かに調達することは可能です。また、各制度の担当者に問い合わせることにより、しっかりと相談に乗ってくれますので躊躇うことなく、ぜひトライしてみてください。
なお、各制度は年度や申請状況などに応じてまたは変更または停止される場合がありますので、各制度のホームページ等をこまめにチェックするようにしましょう。