経営者であれば「経営に関する事項は何でも知っていて当たり前」だと思われがちです。
確かに、法人や個人事業主を問わず経営者である以上は、最低限の法律上の決まりや税金のルールを理解しておかないと、後々に大きなトラブルに見舞われる可能性も考えられるため、多くの経営者の方はそのような基礎的な知識はお持ちです。
しかし、仕組みやルールが複雑であることから、曖昧な理解のままで止まってしまっている事柄も複数存在していませんか?
例えば「役員報酬」についてのルール。
「役員報酬」が「役員に支払う報酬」であることは、経営者の方だけでなく、誰でも認識することは容易いものですが、では「役員報酬の支払い方法にはどのような種類があるのか」や「税務上の取り扱い」などの細かな仕組みやルールについて伺うと、意外と答えられない経営者の方が多い印象を受けます。
役員報酬の取り決めや扱いは、経営にとって非常に重要な事柄であり、ケースによっては経費として算入できなくなり、思わぬ増税につながるといったことにもなりかねません。
そこで今回は、経営者の方であれば正しく知っておきたい「役員報酬」に関する様々な事項を解説していきたいと思います。
目次
役員報酬とは?
そもそも役員報酬とはどのように定義することができるのでしょうか。
役員報酬は、取締役や監査役といった役員に対して支払われる「報酬」であり、従業員の「給与」と同じように毎月一定額が支給されます。
では、どうして役員に支払われる金銭は「報酬」、従業員に支払われる金銭は「給与」というふうに名称が区別されているのでしょうか。
その答えは、雇用関係の有無にあります。
会社と雇用関係を結ぶ従業員に対して支払われる金銭は「給与」と呼ばれる一方、会社との雇用関係になく委任契約となる役員へ支払われる金銭は「報酬」と呼ばれるということになります。
また、両者の違いは名称だけでなく、税法上での取り扱い方にもあります。
雇用関係を結んだ従業員への給与は、無条件で全額を損金として算入することが可能です。
これに対し、役員への報酬を損金として算入するためには特定のルールに従わなければなりません。
理由は、役員報酬は社長や株主といった「会社のオーナー」が自由に金額設定できることから、その恣意的な運用によって生じかねない会社の利益調節とそれに伴う節税を防止するためです。
このように、役員報酬は単に会社の役員に支払われる金銭ではなく、法人税額にも大きな影響を与えることから、厳格な設定や管理を必要とするものなのです。
役員の範囲
ところで、役員報酬の支給対象となる「役員」とは、どこまでの範囲なのかご存知でしょうか。
これは会社法第329条によって定義されており、具体的には以下の役職に就く人物のことを指します。
取締役
取締役は、株主総会の決議によって選任される人物であり、会社運営における業務遂行に関した意思決定やそれに伴う進行を監督する責務を負います。
株式会社では最低1名置くことが義務付けられており、取締役が3名以上選任された場合は取締役会と呼ばれる機関が設置されます。
執行役
執行役は、指名委員会等設置会社にのみ設置が認められている役員であり、取締役などの役員が決定した重要事項や方針を実行する役割を担います。
似たような役職名に「執行役員」がありますが、こちらの役割自体は「執行役」と変わりないものの、あくまでも社内での役職であるため、会社法上・商業登記法においては従業員と同じ位置付けになります。
会計参与
会計参与は、取締役と共同して賃借対照表や損益計算書といった計算書類の作成にあたる役員です。
なお、他の役員は特定の資格を有する必要はありませんが、会計参与に指名できる人物は公認会計士・税理士の有資格者のほか、監査法人や税理士法人に限られます。
監査役
企業の適正かつ健全な経営を守るため、取締役および会計参与の職務執行を監査する役割を担うのが監査役です。
資本金5億円以上か負債額の合計が200億円以上の大会社のほか、公開会社に設置が義務付けられます。
一方、非公開会社の場合、取締役3名以上で構成される取締役会や会計参与を設置していなければ設置の義務はありませんが、任意に置くことも可能です。
損金算入可能な役員報酬の種類
上記の「役員報酬とは」の項目で、「役員への報酬を損金として算入するためには特定のルールに従わなければなりません」と解説しましたが、役員報酬には損金算入が認められる3つの種類があります。
定期同額給与
ひとつめは定期同額給与です。
定期同額給与は、従業員へ支払われる「給与」と同様に毎月一定額の金銭が支払われる役員報酬のことです。
ただし、残業代や賞与によって金額が変動する「給与」とは異なり、定期同額給与はその名の通りいかなる理由があっても、毎月同じ金額を支払う必要があります。
事前確定届出給与
ふたつめは事前届出給与です。
役員への賞与は原則として損金算入することが認められていませんが、賞与を支払う時期や金額を事前に税務署へ届け出ることにより、損金算入が可能になります。
それが事前届出給与です。
業績連動給与
みっつめは業績連動給与です。
業績連動給与は、会社の利益に連動して決定される役員報酬であり、算定にあたっては、有価証券報告書に記載された指標がもとになります。
ただし株式を親族が保有するような、いわゆる同族会社は業績連動給与の使用は認められません。
例外として同族会社であっても、その完全子会社が非同族法人である場合は使用が認められます。
役員報酬に関する様々なルール
役員報酬の基本的な知識である「役員報酬の定義」「役員の範囲」「損金算入可能な役員報酬の種類」は理解できましたでしょうか。
ここからは、役員報酬に関する細かなルールについてみていきましょう。
役員報酬の決定方法
役員報酬の決定に関しては、会社法上で「定款または株主総会の決議によって決める」と定められています。
つまり、役員報酬の金額は原則として株主をはじめとする会社のオーナーの承認を得る必要があります。
まずは、事業開始日や決算日から3ヶ月以内に開催される株主総会にて役員報酬の総枠を決定します。
承認の条件は過半数の賛成票が必要です。
株主総会で承認された役員報酬の総枠をもとに、今度は各企業の取締役会にて個別の支給額が決議されます。
株主総会と同様に、過半数の賛成によって承認されます。
なお、株主総会・取締役会ともに、決議事項を記録する議事録の作成が必要になります。
役員報酬の変更が可能なのは原則、年に一度
役員報酬の変更が可能なのは、決算月の期首から3ヶ月以内と定められており、仮にそれ以降に増額が決定されても損金算入が認められなくなります。
例えば3月が決算月であれば、同年の4月〜6月の間に株主総会と取締役会での決議が必要ということになります。
したがって、決算から3ヶ月経過後の会計期間に業績が向上したからといってその都度、役員報酬を増額することはできませんし、反対に業績の悪化にともなう減額も認められません。
特定の条件下でのみ増額と減額が認められる
役員報酬の金額は、原則として決算から3ヶ月経過後の会計期間中に変更することはできませんが、特定の条件下でのみ認められる場合があります。
例えば、役員が病気や事故などを理由に長期的な離脱を余儀なくされる場合、もしくは、不祥事によって役員にふさわしくないと断定された場合などです。
どちらのケースにも共通するのは役員としての責務を果たせなくなるという事情。このような事情においては、「臨時改定自由」として3ヶ月経過後の会計期間中であっても例外的に役員報酬の減額が認められます。
また、経営状態の著しい悪化によって、取引先といった社外の第三者に対して悪影響を与えかねないと判断された場合は「業績悪化改定事由」として、役員報酬額を減額することができます。
一方、増額においても「臨時改定自由」によって認められるケースがあります。たとえば、取締役を務める人物が代表取締役に就任した場合などでは、役員としての責務が増すこともあり、役員報酬に関しても相応の増加が認められることがあります。
同業・同規模の他社と同程度の水準に
法律上、役員報酬の金額の限度額などは定められていません。
そのため株主総会や取締役会で承認を得られれば、自由に支払額を設定できるものですが、同業や同規模の他社に比べて過大な報酬が支払われている場合には、損金算入が認められないこともあります。
損金算入が認められないと、法人税に想定以上の増額を課されることにもなりますので、役員報酬は同業・同規模の他社と同水準の設定になるように決定するのが無難であるといえます。
まとめ
今回は、仕組みやルールが複雑であることから、意外と曖昧な理解になりがちな「役員報酬」について解説しました。
役員報酬は従業員に支払う「給与」と同様に、毎月決められた金額を支払う金銭でありながら、税法上、給与とは別の取り扱いがなされるものです。
また、「給与」のように損金算入するには特定のルールに従う必要があり、適正な設定や保管がなされなければ法人税の増加につがるなど、経営を左右するような問題を発生させるリスクも潜んでいます。
今回解説した内容は、顧問弁護士や税理士に伺えば簡単に説明を受けられるものですが、経営の責任者である経営者の皆様自身で正しく理解しておくべきだといえます。
役員報酬に関する仕組みやルールの把握・遵守を通して適正かつ健全な経営を進めるよう心がけましょう。