「経営者になる!」
そう思い立ったらすぐにでも行動に移したいところですが、ちょっと立ち止まってみてください。
個人事業主にせよ法人にせよ、起業にあたってどのくらいの費用が必要か考えたことはありますか?
「そんなに大した金額ではないだろうし、請求された際に工面すればいい」などと高を括り、設立に必要な資金額を事前に把握して用意しておかなければ、設立手続きの途中で思わぬ高額な請求に面を食らう可能性があります。
では、起業にあたっては具体的にどのくらいの費用や準備が必要になるのでしょうか。
個人事業主や会社形態ごとに解説していきますので、これから起業を考えている人はぜひ参考にしてみてください。
個人事業主の設立費用
まずは最も手軽に事業を開始できる個人事業主の設立費用をみていきましょう。
結論からいえば、個人事業主として事業を開始するのであれば、法定費用の支払いは不要です。したがって資金がゼロ円であっても開業が可能というわけです。
もちろん、オフィスの賃貸借契約や事業に必要な各種備品の購入にあたっては、相応の支出が必要になりますが、多くの個人事業主は自宅をオフィスとして利用するほか、備品も手持ちのものを使用するケースが多いため、平均的にみても法人設立より圧倒的に低いコストに抑えることができます。
また、個人事業を開業したことを税務署に申告する際に提出する「開業届」がありますが、提出にあたって費用が発生することはありませんし、たとえ未提出であっても法的な罰則を受けることはありません。
ただし、税金面での優遇を受けられる青色申告での確定申告を希望する場合には、開業届の提出が必須となるほか、オフィスの賃貸借契約や銀行口座の開設、クレジットカードの契約や融資審査にあたっては開業届の控えを提出するよう求められることがありますので、提出しておいた方が無難だといえます。
株式会社の設立費用
ここからは法人の設立費用を会社形態ごとに確認していきます。
まずは株式会社です。
株式会社の設立にあたっては、他の会社形態に比べて最も高い法定費用を用意することになります。
目安としては「法定費用が約25万円〜」、さらに事業規模に応じた「資本金」が必要です。
具体的な内訳は以下のようになります。
・定款認証手数料 約5万円 ・登録免許税 15万円もしくは資本金の0.7%(高い方の額を支払う) ・謄本請求手数料 約2000円 ・収入印紙代 4万円 ・会社の実印作成費・登記簿謄本の取得費・印鑑証明書取得費 合計約1万円 |
ちなみに謄本請求手数料に関しては、1ページ250円という設定がされているため、定款の枚数によって総額は変動しますが、およそ2000円が目安となります。
また、定款認証を電子定款認証で行う場合には定款に貼る収入印紙代は不要です。
一方、資本金は2006年に施行された会社法によって1円以上であれば法人の設立が可能と定められています。
ただし、資本金は法人の事業規模を示す目安となるものです。
したがって仮に1円の資本金で法人を設立したとしても、取引先や金融機関から支払い能力を疑問視されることに繋がりかねません。これにより信用を得ることができず、取引や融資審査に支障が生じる可能性も考えられます。
もちろん資本金は法人設立後でも増資が可能ですが、手続きの手間や追加の費用を考慮にいれれば、やはり設立の段階である程度の金額を用意するべきだといえます。
資本金に基づく信用の基準は、取引先や金融機関によって様々ですので一概にはいえませんが、少なくとも3ヶ月〜半年後までは事業を継続できる金額を投じるべきでしょう。
合同会社の設立費用
次に合同会社の設立費用をみてみましょう。
合同会社は2006年の会社法施行により、有限会社に代わって導入された比較的新しい会社形態です。
株式の発行が不要なほか、株式会社よりも低い費用で設立が可能なために、個人経営に適した会社形態といえ、若い起業家などの間で人気が高まっています。
そんな合同会社の設立費用の目安は「約10万円〜」と「資本金」となります。
内訳は以下の通り。
・登録免許税 6万円もしくは資本金0.7%(高い方の額を支払う) ・謄本請求手数料 約2000円 ・収入印紙代 4万円 ・会社の実印作成費・登記簿謄本の取得費・印鑑証明書取得費 合計約1万円 |
株式会社の設立費用を比較すると、登録免許税が9万円も安いことが分かります。また公証人による定款認証が不要ですので、定款認証手数料を支払う必要もありません。
このように低コストかつ簡易な手続きで設立できる合同会社ではありますが、新しい会社形態であるために株式会社に比べると法人としての信用度にやや欠けるのが事実です。
ですので、合同会社で事業を行いたいという希望があれば、資本金の額をなるべく大きくするなどして信用度を高めておきたいところです。
合資会社・合名会社の設立費用
現代の法人設立にあたっては、株式会社か合同会社のどちらかを選択するのが一般的ではありますが、日本の会社形態には合資会社と合名会社もあります。
合資会社は有限責任社員と無限責任社員から構成される会社形態であり、設立にあたっては、2名以上の人員が必要です。
一方の合名会社は無限責任社員のみで構成される会社形態です。
どちらも倒産時に会社の債務を個人で負う無限責任社員が必要となることから、経営にあたってのリスクが大きいといえます。
設立費用は合同会社と同等であり、株式の発行が不要なほか、定款認証の必要もありません。
つまり、あえて経営のリスクの高い合資会社や合名会社を設立するメリットはあまり無いといえ、実際に新規でこれらの会社形態で設立する起業家はほとんど存在しません。
信用度に関しても、近年認知度が高まっている合同会社に分がありますので、低コストで法人を設立したいのであれば、迷わず合同会社を選択するべきでしょう。
法定費用以外の費用
以上が、個人事業主ならびに各会社形態の基本的な設立費用(法定費用)です。
次に法定費用以外の費用のほか、実際に事業を進める中で必要な費用を確認してみましょう。
もちろんこれらの費用の捻出は任意であり、不要と判断できればいくらでも節減が可能です。
名刺作成費
事業を行うにあたって必ず必要になるのが名刺です。
最近では、オンライン上で交換・管理のできるデジタル名刺の普及が進んでいますが、現時点では対応していない事業者がほとんどですので紙製の名刺の作成は必須だといえます。
作成にあたって発生するのはデザイン費と印刷費。
ですが、無料のデザインソフトがいくつかあるほか、ネットプリントのサービスに会員登録をすればテンプレートを利用して簡単に作成することもできるため、デザイナーを通さなければデザイン費は抑えられます。
また、印刷に関してもネットプリントの利用であれば、100枚数百円程度で発注できますし、名刺用紙を使用して手持ちのプリンターで印刷すればさらに安い費用で用意することも可能です。
オフィス賃貸費
事業内容によってはオフィスや店舗となる物件を借りる必要があります。
その場合、契約時に支払う保証料や手数料の用意は当然必要となりますが、その後に支払う月々の賃料も数ヶ月分はあらかじめ用意しておいたほうがよいでしょう。
固定費の中でも特に高額になりがちなオフィス賃貸費ですが、節減の方法がいくつかあることも忘れてはなりません。
ひとつはご自宅をオフィスとして利用する方法。
もうひとつはシェアオフィスやコワーキングスペースを利用する方法です。
ただし、事業内容によってはこれらの方法が許可されないほか、オフィスを構えていない事業者に対する信頼を持ち得ない事業者も多数存在するようです。
ですので、特に法人を設立する際には予算と相談をしながらでも、なるべくオフィスの賃貸を視野に入れるべきだといえます。
法の専門家や税理士との顧問契約費
経営の道は前途多難。
経営を続ける中で、ひとつもトラブルが発生しない個人事業主や企業もあるかと思いますが、そのようなケースは稀であり、法に基づく相談や解決が必要になる事態が発生する可能性は常につきまといます。
そのような事態に備えるためにも、法の専門家である弁護士や司法書士との顧問契約はできる限り行っておきたいところです。
また、円滑な税務手続きや効果的な節税対策が行えるよう、税理士との顧問契約もしておきたいですね。
一般的な相場は、弁護士の顧問契約費は月額3万円〜5万円、税理士との契約費は月額1〜3万円ほどといわれています。
ただし業種や事業規模などに応じて料金の変動があるほか、縁故や同業者からの紹介などによって相場よりも安い料金で顧問契約を交わせるケースもあります。
設備費
設備費の支出は事業内容によって大きく異なります。
たとえばパソコンが1台あれば事業が成立するような事業なら、設備費の支出は大きく抑えられますし、維持費の心配もさほど必要ないでしょう。
一方で、飲食店や製造業などの大規模な設備の導入が必要な事業を始めるのであれば、それ相応の資金を要しなければならず、場合によっては自己資金だけでは対応できないこともあるでしょう。
また導入後も維持費やメンテナンス費の捻出は避けて通れません。
そのような場合は、補助金や助成金のほか日本政策公庫による創業融資制度などを活用することになるかと思いますが、まずはそれらの制度でどのくらいの資金を調達できるかを周到に調べておく必要があります。
まとめ
今回は起業する上で必要になる費用をご紹介しました。
法人の設立にあたっては法定費用に資本金、さらにはその他の費用がかかるのに対し、個人事業主で起業する場合には法定費用も資本金も不要です。
また、法定費用に関しては会社形態によって額が異なります。
「会社設立時の資本金はゼロ円で済む」という知識だけで企業の準備を進めてしまうと、予想外の請求に頭を抱え込むことにもなりかねません。
ですので、経営や事業の体制や内容、規模を考えるのも大切ですが、事業を開始・維持するにはどれほどの予算が必要なのかも重々考慮に入れながら、起業の準備を進めるようにしましょう。