「資金ショート」
事業者であれば、一度は頭をよぎったことのある言葉ではないでしょうか。
特に経験の浅い事業主の方は、資金ショートに陥る可能性が生じると「このままではたちまち倒産に至るのではないか」などと、大きな不安に駆られるものです。
確かに資金ショートが倒産の直接的な原因となることはしばしばありますが、資金ショートに陥ったからといって、必ずしも倒産が確定するわけではありませんし、事前に回避できる方法はいくつかあります。
そこで今回は、資金ショートの定義や生じる原因、また資金ショートの危機がおとずれた際にとるべき対策などについて解説していきます。
目次
資金ショートとは?
資金ショートとは、手元の現金や預金が不足することによって、仕入れ代金や人件費といった運転資金が支払えなくなる状態を指します。
よく勘違いをされる方も多いのですが、資金ショートはあくまでも「現金や預金」の不足であり、売上の減少や赤字を指すものではありません。
したがって、たとえ黒字経営を続けている企業であっても、売上金の回収遅れや、それに伴う支払い不能の状態に陥るなどによって運転資金の支払いができなくなれば、一気に「黒字倒産」の可能性が生じる場合もあるといえます。
資金ショートが与える影響
ひとたび資金ショートに陥れば、企業はいくつものリスクにさらされる可能性が考えられます。
上記の通り、資金ショートとは「現金や預金の不足による運転資金の支払いが不能」になる状態ですから、従業員への給与や賞与の支払いが滞ることもあるでしょう。
そうなれば、必然的に従業員からの信用は薄れて退職者は増加し、結果として生産性の低下や売上の減少を招くと同時に赤字へと転じることがあります。
また、仕入れ代金や外注費の支払いがままならなくなることで取引先からの信用を失うことも考えられるほか、家賃や各種機器のリース代金の支払いができずに営業拠点を失うといった事態も起こるかもしれません。
そして、もっとも懸念するべき点は、融資返済の遅延や手形の不渡りなど、銀行取引に関する影響です。
特に、手形の不渡りは半年間に2回発生させてしまうと、銀行取引が停止されることになります。「事業資金の源泉」ともいうべき銀行との取引停止は、実質的な「倒産」を意味することともいえるため注意が必要です。
資金ショートが生じる原因
では、どうして赤字や売上の減少も生じていないのに資金ショートが生じてしまうことがあるのでしょうか。
支出の集中
企業の支出は大きく分けて「固定費」と「変動費」に分類されます。
このうち、家賃や保険料といった一定額を支払う固定費に対し、変動費は生産量や販売量に比例して増減する費用であるため、支出が一時的に集中するケースが度々発生するものです。
中でも、製造業や建設業といった材料の仕入れが不可欠な事業では、それらに対する先払いが発生することが一般的であるほか、社会や経済の情勢によって材料費の高騰や、必要によって臨時の設備投資が求められるなどするため、仮に順調に利益を出していたとしても、支出の集中が起きやすく資金ショートに陥りやすいといえます。
売掛金の回収遅れ
現代の商取引では、現金が支払われるのではなく、請求書の発行に伴う売掛金の発生とその後払いが通例となっています。
したがって、受注案件を完了したとしても現金を得られるまでにはタイムラグが生じるケースがほとんどなのはもちろん、場合によっては取引先の事情により、売掛金の支払いに遅延が起きることもしばしばです。
また、取引先が突然に倒産することによって売掛金の回収ができなくなる可能性もゼロではありません。
こうなった場合に、支出が想定以上に集中するとどうなるでしょうか。
売掛金の回収によって現金の確保を見込んでいたにもかかわらず、それが遅延、もしくは不可能となれば、言うまでもなく自社で内部留保を切り崩すなどして費用を捻出しなければならなくなります。
また、内部留保が十分でない企業にとっては、一度の売掛金の回収遅れや不能といった事態によって経営の存亡にかかわる死活問題へと発展する可能性も否定できません。
売掛金の回収は運転資金の確保に直結します。
そのような観点からも売掛金の回収遅れや不能は資金ショートが生じる原因のひとつといえるでしょう。
資金ショート可能性が生じた際に講じるべき対策
企業にとって、資金ショートは倒産の可能性がはらんだ大問題です。
ですが、資金ショートが目前に迫っている状況に陥っても慌てることなく冷静に対処すれば、回避することは十分に可能です。
ここからは、資金ショートの可能性が生じた際に講じるべき対策について解説します。
支払いの猶予交渉
まずは支払いの猶予交渉を試みることです。
たとえば、仕入先や外注先。
長きにわたって取引を継続し、固い信頼関係を結んでいる取引先であれば、一度や二度の支払い猶予や分割払いといった交渉にも、事情を鑑みた上で応じてくれることがあるでしょう。
ただし、支払いの遅延は少なからず信頼関係を揺るがす行為でもあります。
一度猶予を受け入れられたからといって、それを繰り返すようなことがあれば取引停止につながるリスクがあることを忘れてはなりません。
また融資元への返済猶予、さらには税金や社会保険の支払い猶予交渉も必要に応じて行いたいものです。
特に税金や社会保険の滞納が続けば、売上や不動産など企業の資産が凍結される恐れがあるだけでなく、社会的な信用の失墜にもつながることもあり、事業に多大なダメージを与えかねないものです。
資金ショートに陥るような事態になった時には、各支払い先に対して正直に事情を話し、支払いの猶予を求める交渉を優先して行うべきだといえます。
資産の売却
資金ショートは「現金や預金の不足」ですので、その手っ取り早い回避策が「現金の確保」であることは明確。
そこで考えたいのが各種資産の売却です。
保有する資産は、会社・経営者ともに企業によってそれぞれかと思いますが、たとえば会社の遊休資産を抱えている場合は、「宝の持ち腐れ」ともいえますので、すぐに売却して現金化するべきでしょう。
中でも、不動産の売却は維持費や固定資産税の支払いを削減できますので、「現金の確保」には非常に有効な手段です。
ビジネスローンの利用
担保や保証人を用意することなく事業資金を借入れできるビジネスローンの利用も、一時的な資金の確保には効力を発揮する手段です。
特にノンバンクのビジネスローンは、銀行や信用金庫などに比べて審査が緩いことで知られるほか、スピーディな対応が持ち味であることから最短即日で資金を調達できることもあります。
一方で、金利は銀行や信用金庫の融資に比べてはるかに高く設定される場合が多いため、資金ショートの回避策として利用したにもかかわらず、後に大きな負担となって経営にダメージを与えるリスクがあることも覚えておかなければなりません。
ファクタリングの利用
資金ショートに陥る原因のひとつとして「売掛金の回収遅れ」を挙げましたが、この事態を回避する最善策がファクタリングの利用です。
ファクタリングとは、発生している売掛金(請求書)を債権として売却することにより、実際の支払い期日よりも前に回収できるという金融サービス。
つまり、ファクタリングは「売掛金の回収遅れや不能」の防止策となるわけです。また、あくまでも売掛金の売却と回収による資金調達手段であるため、借入れのように負債を抱える心配もありません。
ビジネスローンと同じように担保や保証人は不要で契約であるほか、多くのファクタリング事業者が「法人との取引によって生じた売掛債権を保有していること」のみを利用条件として設定していることから、審査において自社の経営状況が考慮に入れられることがないのも特徴です。
売掛債権の売却というサービスの仕組み上、「取引先との信用問題に発展するのではないか」と懸念される事業主の方も多くいますが、最近では利用企業とファクタリング事業者間のみでの契約が可能な「2社間ファクタリング」も普及しているので、秘密裏に売掛金を事前回収することができます。
税理士や行政書士などへの相談
資金ショートの可能性が生じた際に講じるべき対策をいくつか挙げてきましたが、最も大切なのは事業主個人で対策の実行を判断するのではなく、自社の財務や会計に熟知する顧問税理士、企業の資金繰りに精通した行政書士や中小企業診断士などの専門家へ相談することです。
資金ショートの回避や改善にあたっては、一時的な対策の実行だけでも効果を発揮することはありますが、それだけでは中長期的な資金繰りの安定にはつながらない場合がほとんどです。
資金ショートの可能性が生じた際には、専門家の適切な指示のもとで企業分析や資金計画の改善を図ることが何よりも重要です。
まとめ
今回は、資金ショートの定義や原因、さらには資金ショートの危機がおとずれた際にとるべき対策などについて解説しました。
資金ショートとは、「現金や預金の不足により運転資金の支払いが不能に陥る状態」を指し、赤字や売上の減少といった事態とは異なります。
会社の倒産要因としては、しばしば赤字や売上の減少が挙げられますが、仮に「黒字経営」を続けていたとしても、手元から現金が失われる資金ショートに陥ることは、「黒字倒産」を引き起こす要因にもなりうるのです。
しかし、資金ショートが目前に迫ったとしても、適切な対策を講じられれば、回避や改善は十分に可能です。
「倒産」という最悪の事態を阻止するためにも、専門家への相談を積極的に行うなどして、資金ショートの回避や改善を目指していきましょう。