今年3月、国内大手インターネット企業の楽天が日本郵政グループと資本業務提携を結んだことが発表されました。
物流DXの共同事業化のほか、モバイルの基地局設置や販売促進、キャッシュレス決済や保険分野での協業などを目指す方針を示しています。
この資本業務提携で明確になったのは、やはりデジタル社会における市場の覇権を握るのは圧倒的な情報技術のノウハウを備えるテック企業であること。
急速なデジタル化が進むあらゆる市場をリードするのは紛れもなくテック企業であり、デジタル化の遅れが生じるような事業はあっという間に飲み込まれるのもまた事実だといえます。
そんななか、これまでは盤石な市場とされてきた金融業界にも大きな革変
が起き始めています。
すでに数年前から、「フィンテック」とよばれる金融と情報技術を掛け合わせたイノベーションが活発化しており、各金融事業者はこぞってICTを活用したサービスや商品の開発・リリースを本格化させて市場で奮闘を続けています。
しかし、それだけでは太刀打ちできそうにもない強大な「黒船」の襲来が間近に迫っているようです。
それがアメリカの巨大テック企業であるGAFAによる日本の金融業界への本格参入です。
クレジットカード事業へと参入したアップル
日本でもおなじみのキャッシュレス決済手段となった「Apple Pay」を展開するアップルは、アメリカの大手金融機関であるゴールドマン・サックスとの連携により、クレジットカード事業に参入を果たしました。
Apple Cardと名付けられたこのクレジットカードは、従来のような煩わしい申請手続きを必要とせず、手持ちのiPhoneやiPadに搭載される「Wallet」アプリを通じて申し込みを行う手軽さに注目が集まります。
またセキュリティ面の強化も目を見張るものがあります。Wallet内で管理を行うデジタルカードが基本であるため、スキミングや盗難の不安は解消。
また従来のクレジットカードのような物理カードは希望者のみに提供されるものの、必要情報はすべてICチップに搭載されるためカード番号は無記載。
アップルの金融事業参入に対する本気度とセキュリティレベルの高さが伺える仕様となっています。
アップルはさらに、個人間送金を可能にする「Apple Pay Cash」もリリース。
どちらのサービスも日本へは2021年現在においては未上陸となっていますが、日本でも高い人気を誇るアップルの新たな金融サービスの普及が急速に進むことは想像に容易いのではないでしょうか。
デジタル通貨の立ち上げを目論むフェイスブック
自社のSNSであるFacebookの展開のほか、InstagramやWhatsAppの買収によって、テック企業としての強固な地盤を形成したフェイスブックは、独自のデジタル通貨である「ディエム」の立ち上げを計画しています。
もともと、ディエムの管理団体が設置されていたのはスイスのジュネーブ。
フェイスブックは、スイスを拠点にデジタル通貨のグローバルな展開を計画していたわけです。
しかし、規制や商業的な反発を受け続ける中で、当初予定していたスイスを拠点とする展開を断念。
アメリカで積極的な仮想通貨サービスを「シルバーゲート銀行」と提携して、ドルに連動した「ディエム・ドル」を発行する方針へと切り替えた模様です。
グローバルな流通を目指していたものの、最終的には計画の縮小を余儀なくされたフェイスブック。
Facebook・Messenger上での個人間送金が可能な「フェイスブック・ペイ」を、主力サービスのひとつであるWhatsAppでも利用可能にするなど、金融事業への注力がみられるものの、日本におけるWhatsAppの利用率は高いとはいえないため、日本の金融業界の影響を及ぼすようなサービスの展開はもう少し先になるといえそうです。
スマホ決済会社買収のグーグルと銀行設立を目指すアマゾン
GAFAの中で、日本の金融業界に特に大きな影響を与えそうな興味深い動きをみせているのがグーグルとアマゾンです。
最近になってグーグルは、みずほ銀行などの複数社が共同出資して設立した日本のスマホ決済会社「pring」を買収。
「pring」がリリースするスマホ決済アプリは、ウォレットへのチャージやお金の引き出しを可能にするものです。
つまりグーグルは「pring」の買収によって、アメリカにおいては銀行口座に紐づけた上で決済やお金の引き出しのほか個人間送金も可能にしている「グーグルペイ」を本格的に日本へ上陸させようと計画していると考えられます。
また、ECの最大手であるアマゾンは、銀行口座からの直接的な決済を可能にするべく、かねてより銀行を設立する計画を立てていると噂されています。
しかし本拠地であるアメリカでは、異業種による銀行免許の取得が認められないこともあり、設立のハードルをそう簡単に乗り越えることはできません。
そこで、銀行業務への参入障壁が低い日本に狙いを定めることで金融業界への本格的な参入を果たそうとしているといえるのではないでしょうか。
これまでにも、ヤフーや楽天といった国内のテック企業が次々と金融事業への参入を果たしてきたとはいうものの、やはり圧倒的な経営体力を備えるGAFAが本格的に日本へと上陸すれば、国内の金融業界の構図を大きく変えるほどのインパクトをもたらすはずです。
巨大テック企業が日本の金融業界を一思いに飲み込むことになるのか。今後の動きに注目が高まります。