経営者は、主に個人事業主と法人事業主のふたつに分類されます。
そして、どちらの経営者であっても事業を行う以上、否が応でも毎年必ず納めなければならないのが税金です。
「納税は義務である」ことは誰もが承知しているもの、可能な限り納税額は抑えたいというのが本音でしょう。
そのためにも、個人事業主、法人事業主ともに合法の範囲内での節税対策をしっかりと行なっていきたいところです。
今回は、経営者であればぜひ実践しほしい効果的な節税対策を個人事業主と法人事業主ごとに紹介していきます。
目次
個人事業主に効果的な節税対策
1. 事業に関する経費をもれなく計上する
個人事業主の最も基本的な節税対策は、やはり事業に関連する経費を適切に計上することです。事業にかかるさまざまな費用を経費として計上することで、所得を圧縮でき結果として所得税や住民税の負担を軽減できます。
例えば、以下のような費用を経費として計上できます。
・事業用車両や交通費
車両を事業用に使用している場合は、そのガソリン代やメンテナンス費用、保険料などを経費として計上できます。もちろん、電車やバスなどの公共交通機関の利用にかかる料金も事業に関連していれば経費になります。
・通信費
事業用に使用している固定電話やスマホ、インターネットの通信費も経費として計上可能です。なお、自宅を事務所として使用している場合など、個人と事業の区別が明確でない場合は、使用割合に応じて按分する必要があります。
・交際費や接待費
顧客や取引先との会食、贈答品の購入費用なども経費に含めることができます。ただし、私的な支出は経費として認められないため、事業との関連性を証明する書類(宛先を取引先にした宅配便の送り状など)を保存しておく必要があります。
・自宅兼事務所の費用
自宅の一部を事業所として使用している場合、通信費と同じように家賃や光熱費を経費として計上できます。ただし、事務所として使用している部屋の面積や使用時間に基づき、合理的に按分することが求められます。
・会議費
顧客や取引先との打ち合わせや会議にかかった費用(飲食代、会議室レンタル費用など)は、会議費として経費計上可能です。ただし、飲食代を会議費として計上する場合、高級な飲食物や大量のアルコール類が含まれているど税務署から会議費として認められないことがあるため注意が必要です。
適切な経費計上を行うためには、経費に関する領収書やレシートをしっかりと保管し、事業関連性を証明できるようにしておくようにしましょう。
2. 青色申告特別控除を活用する
確定申にあたって青色申告を選択することは、さまざまな税制優遇措置を受けることができるため、個人事業主が節税を行う上で非常に有効です。
・青色申告特別控除
最大で65万円の控除を受けられる制度が、青色申告特別控除です。適用条件としては、複式簿記に基づいた帳簿を作成し、適切な形で申告を行うこと。なお、複式簿記を用いない簡易簿記の場合でも10万円の控除を受けることが可能です。
・赤字の繰り越し・繰り戻し
青色申告を行っている場合に事業が赤字になると、その赤字を3年間繰り越すことができます。これにより、将来利益が発生した際に過去の赤字と相殺し、所得税の軽減を図ることができます。また、前年度に利益が出ていれば、赤字をその利益と相殺し、過去に支払った税金を還付してもらうことも可能です。
青色申告は手続きが少し複雑であるため、個人事業主になりたての場合には少し戸惑うことがあるかもしれません。ただ、会計ソフトの活用や税理士のサポートを受けることで効率的かつ確実に対応できるようになるため、適用にあたって不安視する必要はないでしょう。
3. 小規模企業共済を活用する
小規模企業共済は、個人事業主が老後の退職金を準備しながら、同時に節税を行うことができる制度です。この共済制度に加入することで、掛金全額を所得控除として申告でき、毎年の税負担を軽減することが可能ですので必ず加入するようにしましょう。
・老後の資金確保
個人事業主には、会社員のように退職金が支給されません。その代用策として活用できるのが小規模企業共済です。小規模企業共済は、事業を廃業した際や引退時に退職金として受け取ることができます。積み立てた掛金は、事業運営が終了した際に一括または分割で受け取ることができるため、老後の生活資金確保に有用な策のひとつとなります。
・小規模企業共済の税制上のメリット
小規模企業共済は、毎月1,000円から70,000円までの範囲で掛金を自由に設定できます。掛金は全額が所得控除の対象となるため、所得税と住民税を大幅に軽減することが可能です。
4. iDeCo(個人型確定拠出年金)を活用する
iDeCo(個人型確定拠出年金)も個人事業主にとっては重要な節税対策のひとつになります。iDeCoに加入することにより、積み立てた掛金が全額所得控除の対象となるため、節税効果を得ることができます。
・iDeCoのメリット
iDeCoは、毎月一定額を積み立てて将来の年金を準備する制度であり、個人事業主の場合、掛金の上限は年間81.6万円(月額68,000円)です。掛金は全額が所得控除の対象となるため、所得税・住民税の負担を大幅に減少させることが可能です。
・運用益の非課税
iDeCoで運用した資産の運用益も、税金がかからない非課税措置が適用されます。長期的に資産を運用することで、税負担を軽減しながら将来の資産形成を図ることができます。
・受取時の税優遇
年金または一時金として受け取る際に、退職所得控除や公的年金等控除の対象となるため、iDeCoの受取時にも税制上の優遇を受けることが可能です。
5. 少額減価償却資産の特例を活用する
パソコンや事務機器など、事業に使用する高額な資産を購入した場合、その資産の購入費用は減価償却によって数年間にわたり経費として計上しなければなりません。しかし、「少額減価償却資産の特例」を活用することで、30万円未満の資産は一括で経費として計上することができます。
・少額減価償却資産の一括償却が可能
通常、減価償却資産はその使用年数に応じて分割して経費化しますが、「少額減価償却資産の特例」の活用によって取得年度に全額を経費計上できるため、利益が多く発生している年度の税負担を即座に軽減できます。利益が高く、税負担が大きい年に積極的に少額資産を購入することで、当年度の税額を抑えられる効果をもたらします。
6. 家族への給与支払いを行う
事業に家族が従事している場合、その家族に対して適正な給与を支払うことで、所得を分散し、所得税の軽減を図ることができます。
・専従者給与制度の活用
青色申告を行っている個人事業主は、家族に給与を支払うことができ、その給与を全額経費として計上できます。ただし、この制度を適用するには事前に税務署に対して「専従者給与に関する届出」を提出する必要があります。また、給与の金額についてはいわゆる相場の範囲に収められた適正額であることが求められます。
法人事業主に効果的な節税対策
1. 役員報酬の設定を最適化する
役員報酬の設定は、法人税と所得税のバランスを最適化するために重要です。法人税は利益に対して課されますが、役員報酬は法人の損金として認められるため、法人の利益を減少させ、法人税の負担を軽減することができます。
・役員報酬の調整
役員報酬の額を適正に設定することで、法人税を抑えつつ、経営者個人の所得税も抑えることが可能です。役員報酬の設定が高すぎると、個人所得税が増加してしまい、反対に低すぎると法人税の負担が増えるため、両者のバランスを考慮した設定が大切です。
・年次計画の重要性
役員報酬は毎期末に一度設定し、その後は基本的に変更することができません。そのため、事業計画を考慮して報酬額を決定することが大切です。急な利益の増減に備えるためにも、定期的に報酬の見直しを検討しましょう。
2. 福利厚生を充実させる
福利厚生費として支払われる費用は、法人の経費として計上できため法人税を軽減することができます。そのため福利厚生は、従業員満足度を向上させるだけでなく、法人にとっても節税対策のひとつになるのです。
・社宅制度の活用
会社が役員や従業員に社宅を提供する場合、社宅の費用は福利厚生費として経費に計上可能です。特に経営者自身が社宅に住む場合には、賃料を会社負担にすることで、個人の税負担を減らしながら法人税の軽減を図ることができます。
・健康診断や研修の実施
健康診断費用や社員研修の費用も福利厚生費として計上できます。この計上により、従業員の健康管理やスキルアップを促進しながら、法人税の節約にもつながるという一石二鳥の効果に期待できるでしょう。
・社内イベントや社員旅行
社員旅行や運動会などの社内イベントの費用も、福利厚生費として計上可能です。ただし、特定の従業員を対象にしものではなく、全従業員を対象にした公平なイベントであることが条件です。
3. 退職金制度を活用する
退職金は法人税法上、損金として認められるため、退職金制度を活用することは有効な節税対策となります。特に役員退職金は多額になるケースが多く、適切な制度設計を行うことで大きな節税効果が得られます。
・役員退職金の設定
役員が退職する際に支払う退職金は、法人にとっては大きな損金計上の機会となります。退職金の額は「適正額」である必要がありますが、適正な範囲内で高額に設定することで、法人税を大幅に軽減できます。また、退職金は役員個人の所得税でも優遇されるため、双方にとって有利な仕組みです。
・退職金の積立
退職金は毎年少額ずつ積み立てることで、年度ごとに損金を計上することが可能です。これにより、突然の大きな支出による財務負担を避けつつ、税金を効率的に減らすことができます。
4. 減価償却資産を活用する
法人が事業用に資産を購入した場合、その資産の費用は減価償却を通じて複数年にわたって経費として計上できます。減価償却のスケジュールを最適化することで、節税効果を最大化できます。
・定額法と定率法の選択
減価償却の方法には、「定額法」と「定率法」があり、法人は状況に応じて選択することができます。例えば、利益が出ている年に多くの減価償却を行いたい場合は「定率法」を選択し、逆に利益が少ない年には「定額法」を選ぶことによって税負担を調整することが可能です。
・特別償却や即時償却の利用
特定の設備投資や環境対策に対する設備については、特別償却や即時償却が認められています。これらの制度を活用することで、購入した年に多額の減価償却費を計上し、税負担を一気に軽減することができます。
5.役員や従業員向けの生命保険を活用する
法人が役員や従業員向けに生命保険に加入することで、節税と資金運用を両立することができます。特に法人向けの生命保険は、税務上の扱いが有利な商品が多く、上手に活用することで将来的な退職金の原資にもなります。
・逓増定期保険
逓増定期保険は、一定期間後に保険金額が増加する保険です。保険料の一部を経費として計上でき、退職金や事業継承の資金としても利用できます。契約期間が長いため、長期的な節税計画には最適だといえるでしょう。
・全額損金計上型保険
一部の法人向け保険については、支払った保険料を全額損金にできるものがあります。これを活用することで、毎年の利益を圧縮しながら法人税を軽減することが可能です。
6. 小規模企業共済と中小企業倒産防止共済を活用する
中小企業の法人事業主は、個人事業主同様に小規模企業共済や中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)を活用することによって、節税とリスクヘッジの両方を実現できます。
・小規模企業共済と中小企業倒産防止共済
経営者自身が個人事業主のように小規模企業共済に加入することで、退職金準備と節税を同時に行うことができます。毎年の掛金は全額損金として計上でき、退職時には退職金として一括または分割で受け取ることが可能です。
一方の中小企業倒産防止共済は、取引先が倒産した場合に備えるための共済制度。掛金については、全額を経費として計上できます。万が一取引先が倒産した際には、掛金の10倍までの融資を受けることができるため、リスクヘッジとしても有効です。
7. 節税対策としての事業再投資を積極的に行う
法人事業主は、利益が出た年に事業再投資を検討することもの節税対策として有効です。設備投資や研究開発費用に充てることで、事業の成長を促進するとともに法人税の軽減にもつなげることが可能になります。
・設備投資減税の活用
中小企業に対しては、特定の設備投資に対する減税措置が用意されています。これらの制度を活用することで、投資額の一定割合を税額控除することができます。
・研究開発費の経費化
商品やサービスの研究開発にかかった費用は、経費として計上できるだけでなく、研究開発税制により税額控除の対象となる場合があります。この対象として認められれば、法人税を効果的に軽減しながら事業の競争力を高めることができます。