2022年における国内のトピックといえば、やはり歴史的な円安急進とそれにともなう物価の高騰ではないでしょうか。
食品や日用品といった生活必需品、ビジネスに必要な資材や運送費などが上昇し、個人と事業者の両者に多大な影響をもたらしました。
一時は150円台にまで値下がりした円でしたが、11月以降は130円台にまで値上がり。アメリカの利上げペースの減速などが影響し、ようやく国内の円安傾向はピークアウトを迎えたとみられます。
しかし、現在も続くロシアのウクライナ侵攻をはじめとする諸問題により、物価の高騰は来年も継続される見通しであり、引き続き生活やビジネスに影響を与えるものと思われます。
そんななか、2022年に限らず断続的に値上がりしているのが電気料金です。特に2021年9月からはその傾向が顕著であり、大手電力会社や新電力会社による電気料金値上げの発表が相次ぐなど、関連するニュースも頻繁に流れています。
そして、大手電力会社は経済産業省に対して、2023年4月からの電気料金値上げをすでに申請済み。では、なぜ電気料金の値上がりが続いているのでしょうか。今回は、その要因について解説していきます。
まずは電気料金の内訳について確認してみましょう。
目次
電気料金の構成
基本的に、電気料金は以下の4つの料金で構成されています。
- 基本料金
- 電気量料金
- 燃料費調達額
- 再エネ賦課金
次に、それぞれの料金の詳細についてみていきます。
基本料金
電気料金における基本料金は、電気の使用料にかかわらず請求される料金です。主に契約容量に応じて決定される固定料金であり、毎月一定の額を支払う必要があります。
その使途は、設備費や人件費といった、基本的な運営費と電気の安定供給に向けたコストの補填。電力会社にとって基本料金は、電力供給のためにも欠かせない費用だといえます。
では、基本料金の額はどのように決まるのでしょうか。
ひとつは、契約容量ごとに決められた料金体系に応じて決定される方法。
10Aや40Aのように、契約する容量ごとに基本料金が定められており、容量が少ないほど基本料金も低くなります。
ふたつめは、「従量電灯プラン」など、容量ごとに契約することなく基本料金が決定される方法です。
この方法では、基本料金とは異なり、一定の電気使用量の料金が含まれる最低料金として請求されることになります。
したがって、最低料金の範囲内での使用であれば、電気使用量に応じた追加料金が発生することはありません。
みっつめは、電気使用実績に応じて基本料金が決まる方法です。
これは、過去1年間の最大需要電力に応じて契約電力が決定され、それに応じた基本料金が算出されます。
電気量料金
こちらはその名の通り、電気の使用量に応じて発生する料金。つまり、電気を使えば使うほど料金が上がり、反対に使用量が少なければ額を抑えられる従量式の料金です。
したがって、「電気料金の節減」のために行う様々な対策は、この電気量料金の低下に直結するということになります。
電気量料金の算出方法は、以下の通り。
電力量料金=(電力量料金単価±燃料費調整単価)×1ヵ月の電気使用量
このうち、電力量料金単価はそれぞれの電力会社によって異なる額が設定されており、電気使用量が高まるほど金額も上昇することになります。
燃料費調整額
電気を作る燃料になるものといえば、原油や石炭、LNG(液化天然ガス)などが挙げられますが、これらの価格は固定されているわけではなく、市場や為替といった外部要因の影響を受けながら変動します。
そういった燃料を調達するうえで、価格の変動に応じて請求されるのが燃料費調整額です。燃料価格が上がれば燃料費調整額は加算され、下がれば燃料費調整額を差し引いて電気料金が算出されます。
再エネ賦課金
地熱や風力、水力や太陽光といった再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度とともに、2012年に導入された料金が再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)。
これは、再生可能エネルギーを使用した発電の普及を目的に、一定期間において固定価格での再生可能エネルギー購入を義務付けられた電力会社が、その費用の一部を消費者から請求するために導入された料金です。
なお再エネ賦課金の金額は、経済産業大臣によって年度ごとに決定される再生可能エネルギー発電促進賦課金単価に、ひと月の電気使用量を乗じて算出されます。
電気料金が高騰する主な3つの要因
以上の4つが電気料金の内訳となります。
それでは、どのような要因によって、これらの電気料金は高騰を続けるのでしょうか。
燃料費調整額の高騰
ひとつは、燃料費調整額の高騰が挙げられます。
前項でも説明したとおり、燃料費調整額とは、電気を作る燃料の価格変動に応じて加減される料金です。
日本の電源構成のうち、76.3%の割合を占めるのが火力発電なのですが、火力発電の燃料として使われる資源といえばLNG(液化天然ガス)や石炭。
昨今では、これらLNGや石炭の輸入価格の高騰が顕著であることもあり、必然的に燃料費調整額も上昇しているというわけです。
LNGや石炭の輸入価格が高騰した理由のひとつとして考えられるのが、新型コロナウイルスの感染症拡大の影響です。
2020年の発生からしばらくの期間、世界各国では外出制限やロックダウンをはじめとした規制や対策を講じると同時に、大規模な経済停滞も生じました。これにより、原油価格の下落や化石燃料からの投資撤退が急速に進み、世界中で一時的に化石燃料の需要が低下します。
ところが、徐々に規制が緩和され経済活動が再び活発になるにつれて化石燃料の需要が一気に増加。結果として供給が間に合わず、市場バランスが大きく崩れたことがLNGや石炭の輸入価格が高騰した要因とされています。
さらに、現在も続くロシアのウクライナ侵攻も要因として挙げられます。
ロシアは、LNGの輸出量で世界第1位、石油は2位、石炭は3位と世界有数の化石燃料産出量を誇る国のひとつ。
しかし、ウクライナ侵攻を理由にアメリカやEU加盟国が次々に経済制裁を行い、ロシアの輸出入が制限されたことで、それらの流出量が減少した結果、価格の高騰にまで発展したといえます。
また、世界各国が推し進める「脱炭素社会の実現」に向けて、化石燃料に比べると二酸化炭素排出量が少ないLNGへの切り替えが進んでいることも要因のひとつ。
LNGの需要は年々高まっているのにもかかわらず、供給量を増やすことができず、価格高騰とともに、いわば各国による“争奪戦”が続いている状況にあります。
再エネ賦課金の価格高騰
再エネ賦課金が導入された2012年は、同料金の価格が「1kWhあたり0.22円」であったのに対し、2020年は「1kWhあたり2.98円」、そして2021年は「1kWhあたり3.36円」と、導入時に比べて大幅に高騰しました。
再エネ賦課金は、再生可能エネルギーの普及に応じて単価が上昇するという性質上、今後もさらなる高騰が予想されており、2030年には「1kWhあたり5.22円」にまで伸びるといわれています。
原発停止や火力発電縮小による電力供給不足
2011年に発生した東日本大震災を機に、日本の原子力発電所の多くが稼働を停止しました。
この影響によって火力発電への依存が高まったわけですが、火力発電のデメリットである高い二酸化炭素排出量のほか、電力自由化にともなう大手電力会社の採算性の問題が要因となり、結果的には火力発電所の縮小も続いています。
2010年から2020年までの電力供給量の減少率は12.9%。理想である再生可能エネルギーへの移行が思うように進まない中で、電力供給量は年々減少の一途をたどっているのは確かだといえます。
電気料金の高騰を受けた電力会社の対応
続く燃料調整額の上限撤廃
これまで大手電力会社の各社は、燃料調整額に関して上限額を設定していました。
これは、消費者の支払額を抑制するのが目的であり、上限を超過した場合には、その超過分を負担するのは電力会社となります。
ところが、燃料価格の高騰が続く現状のなかでは、その負担額の増加も顕著であり、電力会社にとっては重荷となっています。
すでに、大手電力会社10社において、燃料調整額は上限に達しており、上限撤廃を決断せざるをえない状況に。四国電力では、すでに上限撤廃を実施したほか、その他の大手電力会社も順次上限を撤廃することが予想されています。
新電力会社の深刻な経営不振
また、2016年の電力自由化によって次々に参入を果たした新電力会社の多くも深刻な経営不振に陥り、事業撤退や倒産といった決断を余儀なくされる状況にあります。
再エネ賦課金の増加は少なくとも2030年まで継続
今や毎年のように電気料金の値上げに関するニュースを見聞きしますが、この状況は今後も続くことが予想されています。
その根拠のひとつが、再エネ賦課金の存在です。
前述の通り、再エネ賦課金は再生可能エネルギーの買取りを実行するために請求される費用です。したがって、再生可能エネルギーの導入が進めば進むほど、買取価格の減少が見込まれるものですが、一方で新規導入された再生可能エネルギーへのコストが上乗せされることにもなります。
固定価格買取制度においては、事業用の再生可能エネルギーに関して20年間の保証期間が設けられており、少なくとも現在から10年間は継続して再エネ賦課金の増加が続くと考えられます。
2023年1月から開始される政府の電気料金支援策
すでに電力各社が来年の電気料金値上げを発表している状況ですが、それと同時に1月から実施が始まるのが政府による電気料金支援策です。
これは、大手電力会社が国からの補助金を受けて、使用量に応じて電気料金を値引きするというもの。
電気料金の単価はそのままに、「燃料費調整額」から差し引くかたちが取られます。
少しでも電気料金を抑えたい家庭や企業にとっては有難い施策だといえますが、電気料金の高騰は来年だけでなく再来年以降も続くことが予想されています。
そのため、一過性の支援策に終わる可能性も否定できません。
今後は、国内における電気の供給量を上げるためにも、再生可能エネルギーを基にした発電をさらに本格化させるような、根本的な改善策が待たれるのではないでしょうか。