新たに法人を設立しようと考えた場合には、事業内容などとあわせて会社形態も選択する必要があります。
現在の日本で設立できる会社形態は4つ。
それが「株式会社」「合名会社」「合資会社」。そして「合同会社」です。
「合同会社」は2006年の会社法改正によって新たに設立が可能になった、比較的新しい会社形態ではありますが、「アップル」や「グーグル」といった世界に名だたる大企業の日本法人がこの会社形態をとるなど、決してマイナーな存在にとどまっているわけではありません。
また、日本では、長きにわたって「会社」といえば「株式会社」が現在は新規設立ができない「有限会社」のいずれかを指すイメージがりましたが、最近では若い起業家などを中心に「合同会社」を選択する傾向が高まっています。
では、「合同会社」とはどのような特徴を持つ会社形態なのでしょうか。
設立する際のメリットやデメリットも交えながら解説していきたいと思います。
目次
合同会社とは?
冒頭でも触れたとおり、合同会社という会社形態が設けられたのは2006年5月1日。
アメリカのLLC(Limited Liability Company)と呼ばれる会社形態をモデルに誕生しました。
LLCは、出資者が資金を提供するだけでなく、社員として経営にも参画するという特徴を持ち、アメリカでは株式会社と同等に広く普及している会社形態です。
日本の合同会社もアメリカのLLC同じように、出資者全員が業務執行権を有する社員として存在するという特徴があります。
順を追いながら、「合同会社」の特徴についてもう少し詳しくみていきましょう。
・会社の所有者と経営者が同一
合同会社では、株式会社のように出資者と経営者が別となる、いわゆる「所有と経営の分離」が行われません。
したがって、合同会社の設立にあたって資金を提供する出資者と実際に経営を進める経営者は同一。
出資者が複数人いる場合には、その出資者全員が経営者ということになります。
・合同会社の役職
株式会社であれば、取締役をはじめとする経営を担う役職を「役員」、正規雇用された従業員を「社員」と呼ぶのが一般的です。
一方の合同会社では、出資者兼経営者全員のことを「社員」と呼びます。
原則として、この「社員」全員が代表権と業務執行権を有するわけですが、特定の代表者が定まっていない状態だと、組織としての統率が難しく、意思決定などの場面において大きな混乱が生じる可能性も考えられます。
そこで、合同会社では「社員」の中から、代表権や業務執行権を行使する以下のような「代表者」を定款にて定めることができます。
・代表社員
代表権を行使する役職が「代表社員」です。
株式会社でいえば「代表取締役」にあたります。
なお、「代表社員」は代表取締役のように、複数名選出することも可能です。
・業務執行社員
合同会社では、出資した社員全員が経営権を有するわけですが、中には経営には携わることなく業務に集中したいと考える人もいます。
また、経営の能力に長けた人物にのみ業務執行権を与えたほうが、組織としての統率力も高まると期待できる場合もあるでしょう。
理由はどうであれ、合同会社では業務執行権を有する社員を定款で定めることができ、この該当社員のことを「業務執行社員」と呼びます。株式会社でいえば、「取締役」にあたる役職です。
なお業務執行社員も代表社員と同じ様に複数人の選出が可能であるほか、業務執行社員に指定されなかった社員が、業務の遂行状況や財産管理などを行う権限を失うわけではありません。
合同会社設立のメリットとデメリット
では次に、合同会社設立のメリットやデメリットをみていきましょう。
メリット
・出資者全員が有限責任社員で倒産時もリスク低
合同会社の出資者は、株式会社と同様に全員が有限責任社員となります。
有限責任社員とは、会社が負債を抱える場合や倒産時であっても、それぞれの責任の範囲が出資額に限られるという社員のことを指します。
たとえば会社が1億円の負債を抱えて倒産に至ったケースがあるとすれば、1,000万円を出資した出資者は1,000万円以上の責任を負う必要はないということになります。
したがって、倒産時には出資者が連帯責任を負う「無限責任」が適用される「合名会社」や「合資会社」に比べると、リスクが低減されるというメリットがあります。
・意思決定のスピードが増し、経営の自由度が増す
合同会社は株式会社のように株主総会を開催する必要がありません。
そのため、経営に関する重要な決定は社内の判断のみで行えるなど、株主に対して伺いを立てる必要はないため、経営をコンパクトかつスピーディに進めることが可能になります。
また、利益配分に関しても、定款で定めさえすれば出資の比率に関係なく自由に決定できるので、自由度の高い経営を実現することができます。
・法人ならではの節税メリットが得られる
こちらは個人事業主の場合と比較したメリットとなりますが、合同会社も当然ながら法人の形態ですので、法人ならではの節税が行えるようになります。
たとえば所得税。
個人事業主の場合、所得税は累進課税が適用されますが、法人税は800万円以下の所得で22%、それ以上であれば30%の一定税率となりますので、所得が大きく伸びると期待できるのであれば、法人化するべきだといえるでしょう。
・定款の認証は不要
合同会社でも、株式会社と同じように定款を作成する必要はありますが、交渉人の認証は不要です。
したがって株式会社の設立時に必要になる50,000円の認証手数料の支払いが不要なために、会社設立時のコスト削減だけなく、手間も抑えられるというメリットがあります。
・設立費用を大幅に抑えられる
合同会社を設立する際にも費用が発生しますが、上記の定款の認証料が不要になるのはもちろん、株式会社の設立費用に比べると15万円ほど抑えることが可能です。
定款用収入印紙代こそ、両形態ともに4万円の支払いを求められますが(電子定款では不要)、合同会社の設立時に定款の謄本手数料の支払いは不要。
また、登録免許税に関しても、株式会社は15万円か資本金額×0.7%のどちらか高いほうを支払うのに対し、合同会社では6万円か資本金額×0.7%のどちらか高いほうとなります。
ちなみに合同会社には決算公告義務がないため、6万円の官報掲載費の支払いも求められることもありません。
デメリット
・認知度や信頼性はまだまだ高いとはいえない
世界有数の大企業の日本法人が合同会社の形態をとるなど、現在における認知度は決して低いとはいえないものの、他の会社形態に比べれば、まだまだどういった会社形態なのかを把握していない人が多いのが現状です。
またそのような現状から、法人としての信頼性にもやや欠ける面があり、特に、年配の方からの評価は高いといえるものではないようです。
認知度や信頼性に不安を抱えがちな合同会社にとって、その影響を最も受ける可能性があるのが取引契約時。
取引先によってはそれらを契約にあたっての不安要素として捉えることもあり、合同会社という会社形態を理由に取引に至れなかったというケースも少なからずあるようです。
・株式の増資による資金調達できない
合同会社も、他の会社形態と同じように様々な補助金や助成金の受給のほか、もちろん金融機関からの融資も受けられます。
最近では、金融機関の合同会社に対する評価も高まっているので、事業内容や財務状況などが評価されれば、会社形態を理由に審査に通過できないなんてことはありえないでしょう。
しかし株式会社と比較すると、とある資金調達手段が行えないというデメリットがあります。
それが、株式の増資による資金調達です。
そもそも合同会社の設立にあたっては、株式を発行する必要はありませんので、増資による資金調達ができないのは当然なわけですが、この制限は資金調達手段の可能性を狭めるものだといえ、それは同時に法人としての可能性をも狭めることにもつながりません。
・社員間におけるトラブル発生の可能性あり
合同会社では、社員である出資者全員が出資比率にかかわらず平等に議決権を持っています。
株式会社のように外部の株主に議決が委ねられるといったことがないため、社員同士が意見をめぐって対立するといったケースが発生する可能性があります。
さらに、利益分配においても、原則として出資の比率に関係なく自由に決定できるので、この比率をめぐったトラブルの発生も考えられるでしょう。
株式会社よりも、自社があらゆる決定権を持つなど自由度の高い経営の実現が可能である反面、そのような自由度の高さゆえに社員同士による対立や意見の食い違いが起こりやすいというデメリットがあることを理解しておく必要があるでしょう。
まとめ
今回は、合同会社の特徴と設立によって生じる可能性のあるメリットとデメリットについて解説しました。
合同会社は、アメリカのLLCをモデルに2006年の会社法改正によって導入された会社形態です。
株式会社に比べると、設立時や運用によって支払うコストを抑えられたり、意思決定がスムーズに行われることによってスピーディーな経営を進められるといったメリットがあります。
その一方で、認知度や信頼性に劣る、株式の増資による資金調達ができないといったデメリットがあるほか、自由度の高い経営が可能であることから、社員同士の経営をめぐった対立の発生も考えられます。
それでも、設立費用も抑えられる上に定款認証といった手間も不要なため、法人設立がはじめての人にもオススメな会社形態であることは確かです。
これから起業を目指す人は、合同会社設立を選択肢のひとつに加えてみてはいかがでしょうか。