ビジネスにおいて生じた売掛債権を売却することにより、実際の受取日よりも早く売掛金を回収できるファクタリング。
日本では、企業の資金調達手段というと、株式の発行や金融機関からの融資、各団体からの補助金・助成金の受給などが一般的でしたが、ここ数年でファクタリングによる資金調達も徐々に認知度が高まってきています。
ただ、国内のファクタリング利用率は、世界の先進各国に比べると決して高いとはいえず、市場の拡大には至っていないのが現状です。
それどころか、10年前の2011年をピークにファクタリングの取扱高は減少と微増を繰り返す傾向にあり、いかに国内でファクタリングの普及が進んでいないのかがわかります。
一方、先進国の中にはすでにファクタリングが企業の資金調達手段として主流となっている国も多々あるようで、特にヨーロッパにおいては、利用率の向上とともに、市場も大きく拡大し続けているといえます。
では、どうして国内のファクタリング市場は他の先進国のように拡大には至っていないのでしょうか。
また、世界のファクタリング市場の現状は具体的にどれくらいの規模にまで発展しているのでしょうか。
順を追って解説していきたいと思います。
目次
国内のファクタリング市場の現状
まずは国内におけるここ数年間のファクタリング取扱高の推移をみてみましょう。
2010年 | 98,500 |
---|---|
2011年 | 111,245 |
2012年 | 97,210 |
2013年 | 77,225 |
2014年 | 51,072 |
2015年 | 54,184 |
2016年 | 49,566 |
2017年 | 37,284 |
2018年 | 48,384 |
2019年 | 49,446 |
単位は100万ドル
FCI(Factors Chain international)が公表したデータ参照
2011年には取扱高が111,245万ドルにまで上昇していることから、10年前までは国内でもファクタリングが高い注目を浴び、市場も活発化していたことがうかがえます。
ところがこれをピークに、その後は大きく減少しています。
2017年にはピーク時の2011年からおよそ70,000万ドルも減少。
2018年からは再び微増を続けているものの、やはりピーク時に比べれば市場は縮小しているといえ、伸び率も高いとはいえません。
このような市場の停滞の要因として挙げられる点は主に3つあると考えられます。
ファクタリング事業者に対するイメージの悪化
ファクタリングという金融サービス自体には、何ら違法性はないどころか、近年では経済産業省が債権の流動化を目的に積極的な利用を推奨するなど、真っ当な資金調達手段として存在しています。
ただ、ファクタリングには貸金業法のように明確な法規制や免許制が導入されていないことから、それぞれの事業者が独自に利用手数料を設定できるなど、自由に事業を展開することができます。
したがって、中には年率換算すると借入よりも明らかに高金利となる利用手数料を課す事業者もいるほか、精算の遅れが生じると、嫌がらせや脅しのような悪質な行為に出る事業者も存在するなど、闇金まがいのサービスを提供しているケースが多々みられるのです。
このような状況が拡大したと考えられるのが2011年のピーク時以降。
融資に関する法規制の強化によって監視の目が厳しくなったのを理由に撤退を余儀なくされた闇金業者の多くが、明確な法規制のないファクタリングに目をつけ、続々と市場に参入してきたのでしょう。
さらに、悪質なファクタリングサービスの提供によって事業者が摘発されるといったネガティブな報道が増加したのも、同時期以降のことです。
このような悪い流れを経ているわけですから、事業主の方々が「ファクタリング」=「悪質な金融サービス」とする誤った認識をもたれるもの無理はありませんし、市場が停滞に陥るのも納得できます。
先述した通り、ファクタリング自体は悪質な金融サービスではありませんし、売掛債権の譲渡を円滑かつ正当に行うことができれば、融資よりもはるかにリスクを軽減して事業資金の調達が可能になります。
つまり、ファクタリング事業者への不信感の募りに伴うイメージの悪化が、そのままファクタリングという金融サービス自体への悪印象につながっていると考えられます。
ネガティブな印象を与える債権譲渡
ファクタリングの基盤はもともと16世紀のイギリスで形成され、その後18世紀から19世紀にかけてのアメリカで現代的な仕組みが構築されたといわれています。
そして、欧米で発展したファクタリングが日本に伝わったのは1970年以降。
ただしその時代の日本では、売掛債権の早期資金化手段としては手形取引が一般的であったこともあり、ファクタリングが普及することはありませんでした。
さらにファクタリングが普及しなかった理由はもうひとつあります。
それが、債権譲渡が取引先に対してネガティブな印象を与えかねないためです。
日本では従来から債権譲渡を行う企業は「資金繰りの悪化」や「業績不振」を疑われる傾向にあり、債権譲渡の実行に踏み切ることにより取引先とのその後の関係性に悪影響をもたらす恐れが十分にあると考えられてきました。
現在でこそ、取引先に債権譲渡通知をする必要なく売掛債権を売却できる「2者間ファクタリング」がありますが、欧米から伝わったオリジナルのファクタリングは利用者・取引先・ファクタリング会社の3者間で契約を結ぶ「3者間ファクタリング」であり、これは利用に際して取引先に対する債権譲渡の通知が必須です。
したがって、3者間ファクタリングのみが提供されていた時代には、取引先との良好な関係性を維持するためにも、ファクタリングの利用は敬遠されてきたといえるのです。
ただ、債権譲渡に対するネガティブな印象は、時代が経過した現代においても根強く残っており、2者間ファクタリングの提供がされた昨今においても、完全に払拭されてはいません。
それでも、2011年に取扱高が111,245万ドルに達するまでに市場が拡大したことを鑑みれば、債権譲渡に対する印象が徐々に軟化したのに加え、2者間ファクタリングの認知度も上昇したともいえるのですが、やはり上述したような悪質なファクタリング業者が続発したことも絡み合い、次第にファクタリングに対する信用は失われていったと推測することができます。
債権譲渡禁止特約の壁
国内のファクタリング市場が停滞を続けたもうひとつの要因として考えられるのは、民法上で規定されてきた「債権譲渡禁止特約」にあると考えられます。
この特約は、債権者(債権の譲渡人)と債務者の間で交わされる契約の中で、債権譲渡を禁止にできるものです。
いくら債権者が債権の譲渡による資金調達を希望していても、特約が結ばれていれば、債務者はこれを拒否する権利を持つことになるため、円滑な債権譲渡の妨げになるという認識が広まっていました。
まさに「債権譲渡における壁」として立ちふさがっていたといえる「債権譲渡禁止特約」でしたが、2020年の民法改正によって、仮に特約が結ばれていても、それを無効化できるようになったことから、債権者が保護される仕組みが確立されたといえます。
海外のファクタリング市場の状況と動向
これらの要因が重なり合うことによって、国内のファクタリング市場は縮小と停滞を続けているものと思われますが、一方で他の先進各国の市場はどのような状況なのでしょうか。
2019年の主要各国のファクタリング取扱高は、アメリカ100,508、中国484,205、フランス419,657、ドイツ330,589、イタリア316,037、イギリス394,759(単位はすべて100万ドル・FCI(Factors Chain international)が公表したデータ参照)となっています。
どの国も日本よりも取扱高は高く、中でもイギリスは前年比2.7%、イタリアは6.4%、フランスは9.1%上昇するなど、特にヨーロッパのファクタリング市場においては拡大の傾向が顕著にみられます。
さらに、今年の10月にREPORTOCEANが発表したデータによれば、世界のファクタリング市場は2021年から2027年の7年間で8.4%以上の成長が見込まれ、2027年には取扱高が5,961億円まで達すると予測されており、今後もさらなる拡大を続けると考えられます。
国内のファクタリング市場は今後どうなる?
安定した現状と、今後の拡大が見込まれる世界のファクタリング市場に対し、国内のファクタリング市場はどのように予測されるのでしょうか。
先述の通り、国内のファクタリング市場が伸び悩む要因はいくつかあり、今後の拡大のためには、まずはそれらを払拭する必要があるといえるわけですが、すでに国内ではファクタリング市場にポジティブに働くであろうと予測される動きが次々にみられるようになっています。
たとえば「債権譲渡に対するネガティブな印象」に関していえば、経済産業省が、大きな負債を抱えるリスクを伴う融資だけに頼るのではなく、売掛債権を円滑かつ効果的に流動させるファクタリングの利用を推奨するなどし、従来からはびこる債権譲渡に対する悪印象の払拭に努めています。
また、事業主の方々が抱きがちな「ファクタリング事業者に対する不信感」に関しても、ファクタリングが国の推奨する資金調達手段となった以上、今後はファクタリング事業を適切に規制するような法整備が進められることが考えられ、悪質事業者の排除に向けた動きも活発化するのではないでしょうか。
そして、最も大きな期待が寄せられるのが、フィンテック企業によるAIや蓄積データを活用した自動審査を可能にする新時代のファクタリングサービスの提供です。
これまでにも、ファクタリングは融資に比べて簡易的な審査やスピーディな対応などがメリットとして挙げられてきましたが、フィンテック企業がファクタリング事業を先導することになれば、事業者の方々がさらに手軽に利用できるようになると予測され、利用率も格段に向上すると考えられます。
実際に、すでにいくつかのフィンテック企業が主体となってオンライン完結型のファクタリングサービスの提供を開始しており、融資に抵抗のある若い事業主の方々を中心に積極的な活用がみられるようです。
まとめ
いくつかのネガティブな要因がつきまとい続けたことが影響し、国内のファクタリング市場は縮小と停滞の傾向がみられ、海外の主要国に比べると伸び悩んできたのは明確です。
しかし昨今では、国内のファクタリングに対する印象の軟化と、さらなるサービスの簡易化を推進するような動きが次々とみられていることもあり、今後は他の先進国の市場に肩を並べるほどの成長を期待できるのではないでしょうか。