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2020年コロナショックが金融業界にもたらした影響

2020年もまもなく終わりを迎えるなか、国内では追い討ちをかけられるかのように、新型コロナの第3波が到来しています。

思えば、今年は1月に最初の国内感染が発生して以降、新型コロナに見舞われ続けた1年となりました。このウイルスの流行はついにはパンデミックにまで発展したことにより、世界各国の人々の生活や企業の経済活動に大打撃を与え、私たちは絶えず苦難と変化に向き合い続けてきました。

国内の経済に目を向けると、最初に大きな影響を受けたのは観光業や宿泊業といったインバウンド事業でした。今年は東京オリンピックの開催も控えていたこともあって、大きな需要が見込まれていたインバンド事業でしたが、外国人旅行客の大幅な減少により業績は著しく悪化。地方の観光地では老舗旅館が次次に破産や倒産に追い込まれるなど、継続的な経営が困難になるケースが続出しました。

さらに新型コロナの猛威はとどまることを知らず、インバウンド事業のみならず様々な業界に脅威を与え続けました。中でも感染防止の目的から海外工場の稼働停止や国内外を問わず需要や生産量が低下したことにより、建設業や製造業などでは深刻な経営難に陥った企業も多々存在します。

それでも、緊急事態宣言をはじめとする行動制限の要請の解除や政府や自治体による資金支援策も一定の成果を上げたものと思われ、徐々に業績を回復させている企業もあるようです。ただ、国内の経済再興に向けた動きが着実に進んでいるとはいえるものの、やはりコロナの収束が見えない限り、コロナが経済に与える影響が止むことは期待できません。

こうしたコロナショックが様々な業界に影響を与え続けた1年の中で、同じように苦難と変化に向き合い続けてきたのが金融業界です。

銀行やノンバンクを問わず、個人や企業の経済活動を支える役割を担う金融業界にとって、その真価を問われる1年となったことは間違いありません。

金融業界の経営危機は経済活動の停滞に直結

今年の新型コロナの蔓延のように、大きな社会的混乱に見舞われることによって、個人や企業を問わず経済活動が停滞すればするほど、金融業界への影響を大きなものとなります。

経済活動の停滞は、言い換えれば資金繰りに困窮する個人や企業が増加しているということ。

そうなれば、否応なく金融業界への期待は高まり、円滑な資金供給が求められることになるのです。

ただ、銀行やノンバンクを問わず各種金融機関の経営体力にも限界があります。

莫大な資金力を有するメガバンクをはじめとした銀行であっても、近年の競争激化をはじめとする様々な要因によって経営体力を削られているのが実情です。そのような状況に今回のような社会的混乱が乗じることによって、さらなる資金供給の需要が高まれば、預金の減少や貸し出しが相次ぎ金融システムの危機に陥ることも懸念されます。銀行の資金繰りの悪化となれば、資金需要に応えられる十分な資金力の維持が困難になる可能性もあるわけです。

銀行の金融システムが危機を迎えることは、ノンバンクの金融事業者にとっても大きなダメージを被ることを意味します。

顧客の預金を主な財源とする銀行に対して、ノンバンクの主な資金源はその銀行からの借入金です。したがって、銀行の金融システムの危機はノンバンクの経営不振にも直結しているともいえ、金融業界全体のバランスが崩れる恐れがあるといっても過言ではありません。

資金需要に応えられる体制は維持

金融業界全体のバランスが崩壊すれば、個人や企業への資金供給も不完全なものとなり、さらなる経済活動の停滞を招くという悪循環に陥り、経済再興への道のりも閉ざされることになりかねないでしょう。

そのような問題を未然に解決するという意味においても、政府が膨大な資金を投じて銀行とともに進めた「実質無担保・無利子融資」は一定の効果がみられたのではないでしょうか。

この政策によって、銀行の金融システムとノンバンクの財源の維持にもつながったといえ、現状においては個人や企業の資金需要に応えられる体制が守られているともいえます。

急速に進んだ手続き・契約のデジタル化

新型コロナの蔓延は、金融業界の事業スタイルにも大きな変化をもたらしました。

そのひとつが「手続きや契約のデジタル化」です。

すでに、銀行における送金や入金受け取りなどといった金融サービスに関しては、ネットバンキングによる手続きが当たり前になっていましたが、これまではデジタル化に遅れをとっていたといえるノンバンクの金融事業者でも、急速にネットですべての手続きや契約を完結できるサービスを続々と導入する傾向が見られまし

手続きや契約のデジタル化によって、事業者向けの金融サービスにおける審査に不可欠ともいえる面談もビデオチャットシステムの活用により非対面・非接触で行えるため、感染拡大防止策の一環にもつながります。これにより、利用者は安全性を保ちながら契約までの手順を踏むことが可能になります。

また、IT企業との連携によりAIやクラウドを活用した金融サービスの誕生も顕著に見られています。

このような、いわゆる「Web完結型」の金融サービスは、提供事業者と利用者双方の利便性の向上やコスト削減につながるとともに、業務の効率化や緊急を要する資金需要に対する対応も可能にさせるとあって、コロナが収束したアフターコロナの世界にいたっても、主流なスタイルになることに疑いの余地はありません。

これまでは「Web完結型」の金融サービスに不安を抱き、あくまで対面による面談を希望していた顧客層も、新型コロナの感染拡大防止の観点から利用に踏み切りる傾向にあるようです。

アメリカのコンサルティング会社であるBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)が行ったオンライン調査によれば、「金融サービスもリモートで十分」と考える30代から50代の現役世代が多く見られるようになったと同時に、「対面」という言葉の定義が変わりつつあることを示しています。

引用
事務手続きのデジタルチャネルへのシフトは30代から50代が顕著だ。現役世代のこの年齢層では、コロナ禍で初めてリモートワークをした方も少なくないだろう。その経験から、「金融サービスもリモートで十分」と考えるようになったことも大きいのではないか。

金融サービスにおける「対面」という言葉の定義が変わりつつある。リモートワークやウェブ会議システムによるコミュニケーションを通じて、対面とは目の前に相手がいることだけでなく、顔を見ながら話せる手法全般を指すと柔軟に受け止める。「人と話せる」人的対応ならばビデオチャット経由でも構わないと考える顧客層が広がっているようだ。

(引用元)https://thefinance.jp/strategy/200914-2

目立つ悪徳金融サービス

「Web完結型」の金融サービスの普及が進み、その満足度も高まりつつある一方で、新型コロナの混乱に乗じるかのような悪徳な金融サービスが目立っているのも事実です。

悪徳金融事業者にとって、非対面・非接触という「Web完結型」の金融サービスの普及は、匿名性を悪用できるまさに願ったり叶ったりの状況ともいえるために悪徳な契約の拡大につながっているといえます。

特に多く見られるのは、融資やファクタリングの悪徳サービスでしょう。また、金融庁からの注意喚起も行われている個人向けの給料ファクタリングも、今だに撲滅にはいたっておらず、まっとうな金融機関からは資金調達できない個人や企業に対して、SNSなどのWeb上で勧誘と契約を進めるものが多く見られます。

さらに、新型コロナ関連の各種支援金の不正受給を前提とした借り入れや、審査料や常識はずれの手数料の支払いなど、通常では考えられない要求をする金融サービスの提供事業者も現れているようです。

これらは当然ながら以前から問題視されていたものの、新型コロナの収束がみえない現状においては、悪質金融サービスに対する警戒心をこれまで以上に強める必要があるといえ、冷静に利用業者を見極めなければならないでしょう。

大きな社会的混乱に見舞われることにより、個々の企業はもとより、全体のバランスを崩しかねない金融業界。しかし、政府による銀行への資金投資などもあり、現状では個人や企業の資金供給がストップするといった事態に陥っているとはいえません。

つまり、銀行もノンバンクも必要最低限の資金需要に応えられる資金力を有する企業は多々存在しているとも考えられるため、資金繰りに不安を抱えているようであれば、積極的な資金調達を検討すべきだといえます。

また、新型コロナの影響によって、これまでは直接の対面が必須となる面談が求められるなど旧態依然としていた金融業界でしたが、期せずしてデジタル化へと舵を切る機会となりました。

個人や企業の経済活動を支える役割を担う金融業界が、収束が見えず今後も続く見通しであるコロナ禍の中で、いかにその役割を全うし続け、さらなる進化を遂げることができるのか。注目していきたいと思います。