資金調達や財務の見直しは、企業が成長するにあたって欠かせない施策です。
なかでも「既存の資産の現金化」は、迅速に資金を調達できる選択肢として認識されており、企業にとって重要な財務戦略のひとつであるといえます。
資産の現金化には、資産の売却や担保にして融資を申し込むといった方法があり、資金の流動性を高めたり、短期的な資金ニーズに対応するうえで非常に有用です。
その一方で、将来的な収益機会を失うリスクや、市場状況によって資産価値が下落するなどの影響にともない、売却するタイミング次第では期待通りの金額を得られない可能性もあります。また税務面での影響や、企業の財務体質に対する長期的な影響も無視できません。
そこで今回は、「既存の資産の現金化」についての解説をおこなうとともに、そのメリットやデメリットについても、具体的なポイントを挙げながら解説します。
「既存の資産の現金化」とは?
「既存の資産の現金化」とは、企業が保有する資産を売却したり資産を別の形態に変換するなどして、即時利用可能な現金を取得することです。
その目的としては、たとえば資金調達のほかにも資金の流動性確保や投資機会の追求、または債務の返済などが挙げられます。
では、そもそも既存の資産とはどういったものがあるのか確認してみましょう。
既存の資産には、企業が所有する様々な種類の財産が該当し、具体的には以下の4種類に分類することができます。
1. 流動資産
現金、銀行預金、売掛金、商品の在庫など、比較的に短期間のうちに現金化できる資産が流動資産です。
2. 固定資産
土地、建物、機械設備、車両など、現金化を目的に保有するのではなく、長期にわたって使用される資産。売却すれば、大口の資金調達につながる可能性が高いのが特徴です。
3. 無形資産
商標権、特許権、ブランド価値といった形のみえない資産。直接的に現金化するのではなく、ライセンス契約などを通じて収益に変えられるのが一般的です。
4. 金融資産
株式、債券、投資信託など、投資を目的として保有する資産です。随時、市場での取引が可能であるため、流動資産と同様に比較的スピーディーに現金化できます。
「既存の資産」を現金化する主な4つの方法
既存の資産を現金化する方法は様々ですが、一般的には以下の4つの方法が知られています。
・市場での売却
最も直接的な方法は、株式や土地、建物などの保有資産を市場にて売却することです。
たとえば株式市場に上場している企業の株式を保有している場合は、その株式を売却することにより、即時現金を得ることができます。また不動産や機械設備といった固定資産については売却に時間がかかる場合こそあるものの、売却が実行できれば大口の資金を調達することが可能です。
・資産担保融資
土地や建物、機会設備や車両などの資産を売却するのではなく、担保にすることによって金融機関から融資を受ける方法が資産担保融資です。
事業に必要な資産を手元に置いたまま現金を得られるため、事業をストップする必要がない点が大きなメリットだといえるでしょう。
・リースバック
保有している資産を一度売却したのち、その資産を引き続き使用するためにリース契約を結ぶ方法をリースバックと呼びます。
たとえば、企業が所有している車両を売却して現金を得た後、その車両をリースで借りて業務を継続する方法があります。資産を手放しつつも引き続き活用できるという点では、資産担保融資と同様のメリットがあり、両者は事業継続を阻害することのない柔軟な資金調達手段となります。
・ファクタリング
ファクタリングは、企業が持つ売掛債権を金融機関やファクタリング事業者などの第三者に売却して現金化する方法です。
本来の売掛金回収日よりも前に現金として得られるのはもちろんのこと、売掛金の未回収リスクを防止する策としても有用だといえます。
「既存の資産」を現金化する目的
では、どういった目的で企業は資産を現金化するのでしょうか。
1. 事業資金の調達
資産を現金化する目的としてもっとも多いのは、やはり資金調達のためでしょう。
たとえば、ビジネスに関する新しいプロジェクトや事業拡大のために投資を行う場合。金融機関からの融資や株式発行だけでなく、保有資産を売却して大口の資金を確保することもできます。
2. 資金の流動性の向上
事業を継続するためには、当然のことながら運転資金が必要になります。
必要な現金を確保できているのであれば問題はないものの、時として運転資金の捻出に窮する場合もあるもの。そうした場合において保有資産を現金化することができれば、急な支出や短期的な資金需要にも対応できるようになります。流動性が高まることで、経営の柔軟性も向上するわけです。
3. 債務返済
借入金を抱えている場合、またはその借入金の返済が困難である場合には、資産を現金化して返済することが可能になります。
特に、金利負担が重い場合や借入条件が厳しい場合などにおいては、財務の健全性を改善するためにもなるべく早期に返済したいものですので、既存の資産の有効活用になるといえます。
4. リスク回避
特定の資産が市場リスクにさらされている場合には、その資産を売却してリスクを分散することができます。
たとえば、不動産市場が下落傾向にあるとします。こうした場合において早期に土地や建物を売却できれば、価値が下落するリスクを軽減することにつながります。
「既存の資産」を現金化するメリット
まずは、メリットから。既存の資産を現金化するメリットについては、上記の「目的」と結びつくものがほとんどです。
・資金繰りの悪化時における支出に対応可能
現金はどのような資産よりも流動性が高く、現金さえ確保できていれば企業の経営に必要な支出が生じた際にすぐに対応できます。
また、特に資金繰りが悪化している場合や急な資金需要が発生した際は、すぐに利用できる現金があることが企業の経営を安定させるために何より重要なのです。
取引先への支払いが滞ることで信用を失うリスクや、予期せぬ修繕や設備投資が必要になった場合にも、既存の資産を現金化できれば柔軟に対応することが可能になります。
・借入れや株式発行に依存しない資金調達を実現できる
資産の現金化による資金調達は、金融機関からの借入れや株式の新規発行といった外部からの資金調達手段に依存しない方法だといえます。
借入金が増加するということは、金利の支払い負担も増加するうえに財務的なリスクが高まることがあります。株式発行についても既存の株主の持分が希薄化する可能性があり、企業の経営権に影響を及ぼすこともあるものです。
資産の現金化は、こういったリスクを回避しながらも自己資金を活用して必要な資金を確保できる方法であるといえます。
・借入金の返済や財務リスクを軽減させる
借入金の返済に充てるために資産を現金化することは、財務リスクを軽減する効果があります。
特に高金利の借入金がある場合、早期に返済することで金利負担を軽減でき、企業のキャッシュフローを改善することにつながります。
また借入金を返済できれば、貸借対照表の健全性が向上しますので金融機関をはじめとした外部からの信用力が高まる可能性もあります。資産を現金化することで、財務の健全化を図る企業は少なくありません。
・新規プロジェクトなどの新たな投資機会に向けた資金確保
事業拡大や新規プロジェクトへの投資を計画している企業にとって、資産の現金化は迅速に資金を確保する手段となります。
市場の好機を逃さないためには、すぐに活用できる資金が必要です。たとえば、成長が見込まれる新市場への進出や、競争力を強化するための設備投資など、将来的な収益を期待できる投資案件がある場合には、保有する資産を売却することでその資金を賄うことができます。
既存の資産の現金化は、企業が成長の機会をとらえて競争力を高めるうえでも効果を発揮するのです。
・資産への依存を抑えてリスクを分散できる
特定の資産に過度に依存することは、市場の変動や経済環境の変化によって資産価値が急激に下落する可能性があるためリスクが伴います。
たとえば、企業が不動産市場に依存している場合、不動産価格が急落すれば大きな損失を被るリスクがあるということです。
一方、資産を一部売却して現金化できれば、その資産に対する依存度が低下しリスクを分散することができます。さらには、その現金を他の資産に再投資することによってより安定的なポートフォリオを構築することも可能になります。
「既存の資産」を現金化するデメリット
・将来的な収益機会を喪失する可能性がある
資産を売却することで、その資産が将来にわたって生み出す可能性のある収益を失うリスクがあります。
たとえば、企業が保有する不動産を売却した場合、その不動産から得られる賃料収入が得られなくなるほか、長期的な価値の上昇の享受もできなくなります。
特に価値が上昇する見込みがある資産の売却してしまうと、将来的に得られるはずだった利益を放棄することになり、中長期的な収益性に影響を与える可能性が生じるといえるでしょう。
したがって、資産の現金化を検討する際には、売却のタイミングやその資産が持つ将来的な収益性を慎重に評価することが大切です。
・市場リスクによって不利な売却になる場合も
資産を売却する際には、その時点の市場状況が企業に不利に働く場合があります。
特に不動産や株式などのように市場変動が大きな影響を与える資産については、タイミングを誤ると想定していた価格で売却できない可能性が生じるといえます。
市場の変動によっては、期待していたよりもはるかに低い金額でしか売却できず、企業の資金調達計画が狂ってしまうリスクがあることに留意しておきましょう。
・課税によって資金運用に支障をきたす可能性
資産の売却によって得た利益には、課税が発生する場合があります。
つまり、売却益が大きい場合にはその分だけ税負担が増えるため、最終的に手元に残る現金が少なくなることがあるということです。
売却益を活用したいと考えていたにもかかわらず、資金が思ったほど残らずに計画していた投資や資金運用に支障をきたすというケースが生じることも考えられます。
・財務状況への悪影響
資産を現金化することで一時的に流動性が向上する一方、資産を減らすことで企業の貸借対照表に悪影響を与える可能性もあります。
特に企業が保有している固定資産を売却すると、貸借対照表上の資産の価値が減少し、外部から財務健全性に疑問を持たれるリスクが生じます。
外部からの信用評価が低下すれば、将来的な資金調達に不利な影響を及ぼすことがあるため慎重な検討が必要になるでしょう。
・生産能力低下などによって競争力低下を招く恐れ
機会設備など、企業が成長や競争力の維持に不可欠な資産を現金化することは、長期的には競争力を低下させるリスクを伴います。
たとえば、製造業が製品製造に必要な機会設備を売却してしまった場合、生産能力の低下を招き、結果的には競合他社に対して劣勢になる可能性があるということです。
また不動産や特許などの無形資産を売却した場合には、企業の独自性や優位性が失われる可能性があります。
短期的な資金需要に対応したいがために競争力を低下させてしまえば、途端に経営難へと転換してしまう恐れもあるという認識を忘れないようにしたいところです。
まとめ
今回は「既存の資産の現金化」についての概要と、そのメリットやデメリットについて解説しました。
流動資産や固定資産など、企業が保有する資産がいくつかの種類がありますが、これらを現金化することによって、様々な資金需要を満たすことができるのはもちろん、リスク分散などにも効果を発揮します。
一方で、信用評価や生産能力の低下を招く可能性が生じるなど、メリットばかりではなくデメリットになる可能性があることも覚えておく必要があるでしょう。