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会社が成長したら株式上場はするべき?
上場の概要やメリットとデメリットを解説

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成長が加速する会社の経営者であれば、「このまま株式上場を目指したい」と考えることもあるかもしれません。
株式上場を達成できれば、社会的な知名度や信用度の向上はもちろんのこと、株式の公開を通じた資金調達が可能になり、会社のさらなる成長にも期待できるようになります。

一方で、社会的な知名度や信用度が向上するということは、言い換えれば会社経営の責任が一層高まることであると同時に、出資を行う投資家の意見を取り入れたり、利益の一部を還元する必要が生じるなど、“開かれた経営”が求められるようにもなるのです。

今回は、会社の株式上場についての概要や非上場企業との違いに触れながら、上場するメリットやデメリットについても解説していきたいと思います。

株式会社と株式上場

株式会社と株式上場

そもそも株式会社とは、主に会社が発行する有価証券である「株式」の売買によって調達した資金をもとに運営する会社形態です。
そして、会社が発行する株式を「株式市場」とよばれる金融市場に公開し、不特定多数の投資家への売却を通じて資金調達できる状態にすることを「株式上場」といいます。
なお「株式上場」は、単に「上場」、上場した企業を「上場企業」とよぶこともできます。

上場企業と非上場企業の特徴

上場企業と非上場企業の特徴

株式市場へ上場した会社を「上場企業」とよぶのに対し、上場していない会社は「非上場企業」とよばれます。
上場企業の特徴は主に3つ。

ひとつは先述したとおり、株式の所有者に社外かつ不特定多数の投資家が含まれることです。
株式市場へ公開した株式は、原則として誰でも購入することが可能となり、株式を購入した投資家は、その会社の株主のひとりとなります。

ふたつめは、外部からの意見を経営に取り込めるようになること。
社内の意見にとらわれることなく、社外からの多角的な意見を取り込むことにより事業の発展や改善につなげられるようになります。ただし、これには一長一短があり、場合によってはデメリットになる可能性もあります。この点については、後ほどメリットとデメリットの項でも触れたいと思います。

みっつめは、資金調達手段の選択肢が増えることです。
会社の資金調達手段は、金融機関からの融資をはじめ、補助金や助成金、ファクタリングなど様々ありますが、上場することによって外部の投資家や企業からの資金調達も可能になります。
つまり、非上場企業に比べれば、それだけ資金力の強化を図れるということを意味するのです。

一方の非上場企業の特徴はというと、まずは株式の所有者が会社の取締役をはじめとした経営者、もしくは同族が経営する関連会社などの“身内”のケースがほとんどであるということが挙げられます。

また、上場企業のように株式を公開することも当然できませんので、一般の投資家から資金を調達することはできません。
その反面、外部からの意見を取り入れる必要がないため、経営者自身が目指すスタイルで事業を進めていくことが可能になるなど、上場企業に比べれば経営の自由度は高いといえます。

さて、最近ではNISAの普及や資産形成への意識向上などを背景に株式投資が盛んに行われていることもあり、上場企業へ対する関心は世間的にも向上している傾向にあるといえます。
そうした現状からも、日本には大多数の上場企業が存在しているように錯覚しがちですが、実は上場企業はわずか1%程度。残りの99%は非上場企業であり、上場を果たしている会社はごく少数に限られているのです。
では、どうしてそれほどまでに上場企業の数は少ないのでしょうか。その理由は、上場を承認されるためにハードルの高い実質基準を満たす必要があるためです。

株式市場へ上場するための実質基準

株式市場へ上場するための実質基準

会社が株式市場に上場するためには、上場適格性を有していなければなりません。上場適格性とは、上場企業としてふさわしいとされるいくつかの要素を備えているということ。上場するためには、まずはこれらの要素について定めた基準を満たす必要があります。

1 企業の継続性および将来性のある収益性

事業が長期間にわたって継続されており、今後も長く収益を上げ続けられる将来性は、上場企業としてのふさわしさのひとつとなります。
ただし、ベンチャー企業やスタートアップ企業のように創業まもなく急成長を遂げる、もしくは高い成長性が見込まれる新興企業が上場可能な市場もあります。

2 健全性の高い企業経営

企業経営における健全性とは、あらゆる法の遵守とともに非独占的な組織体制の構築のことを指します。
非独占的な組織体制とは、役員を経営者の親族だけで構成していないことのほか、たとえば子会社が存在する場合において、親会社への依存なく事業が成立していることなどが相当します。

3 内部管理体制と企業統治体制の構築

社内における法律やコンプライアンスの遵守などを監視する内部管理体制の徹底も、実質基準のひとつとなります。
また、株式市場への上場は“開かれた経営”に移行することを意味しますので、外部から経営を監視する役割をもつ社外取締役や社外監査役などを設置するといった、企業統治体制を構築する必要があります。

4 企業内容などの適切な情報開示

上場企業には、投資家に対して投資の判断材料となる情報を開示する責任があり、そのための体制構築も必須となります。情報とは、企業・事業の内容や発生の可能性があるリスクなど。これらの情報については、不足がないことはもちろんのこと、定められた時期までに開示しなければなりません。

5 その他公益または投資者保護の観点から取引所が必要と認める事項

上場するということは、株式市場における公益性と投資家の保護に務める責任を負う必要があります。
したがって、反社会勢力関与防止体制の整備、買収防衛策の導入などが求められます。

株式市場ごとの審査基準と上場基準

株式市場ごとの審査基準と上場基準

上記のような実質基準のほか、上場する株式市場ごとに定められた審査基準もあわせて満たす必要があります。
2024 年時点で設置されている証券取引所には、東京、名古屋、福岡、札幌の4つがありますが、本稿では東京証券取引所における3つの株式市場の上場審査基準を紹介します。

プライム市場

2022年の市場区分再編前には、「東証一部」に相当していた市場です。
現行の市場区分では最上位の市場であり、いわゆる“有名企業”が大半を占めているなど、高い上場審査基準が定められています。
プライム市場への上場のためには、高水準のガバナンスと時価総額を備え、投資家との建設的なコミュニケーションを中心に据えたうえでの持続的な成長と中長期的な企業価値の向上が求められます。

プライム市場の上場審査基準(形式要件一部)

・上場時見込み株主数   800人以上

・上場時見込み流通株式   流通株式数 20,000単位以上
流通株式時価総額 100億円以上
流通株式比率 35%以上

・時価総額       250億円以上

・事業継続年数 新規上場申請日の直前事業年度の末日から起算して、3カ年以前から取締役会を設置して継続的に事業活動をしていること

・純資産額       50億円以上

・利益額       最近2年間の利益合計が25億円以上、もしくは売上高100億円かつ時価総額1,000億円以上

出典)日本取引所グループ 上場審査基準概要(プライム市場)

スタンダード市場

市場区分再編前の「東証二部」と「JASRAQ(スタンダード)」に相当する市場です。
基本的なガバナンス水準と流動性があり、持続的な企業成長と中長期的な企業価値の向上が期待できる企業が上場可能な市場です。

スタンダード市場の上場審査基準(形式要件一部)

・上場時見込み株主数  400人以上

・上場時見込み流通株式 流通株式数 2,000単位以上
流通株式時価総額 10億円以上
流通株式比率 25%以上

・時価総額       基準なし

・事業継続年数     新規上場申請日の直前事業年度の末日から起算して、3カ年以前から取締役会を設置して、継続的に事業活動をしていること

・純資産額     正

・利益額        最近1年間の利益が1億円以上

出典)日本取引所グループ 上場審査基準概要(スタンダード市場)

グロース市場

市場区分再編前の「マザーズ」と「JASRAQ(グロース)」に相当する市場です。
主にスタートアップ企業やベンチャー企業などのような新興企業が上場可能な市場ですが、そういった企業は財政基盤が盤石とはいえないため、事業計画をはじめとする適切な情報の開示が適時求められることになります。

グロース市場の上場審査基準(形式要件一部)

・上場時見込み株主数  150人以上

・上場時見込み流通株式 流通株式数 1,000単位以上
流通株式時価総額 5億円以上
流通株式比率 25%以上

・時価総額     基準なし

・事業継続年数     新規上場申請日から起算して、1年前以前から取締役会を設置して継続的に事業活動をしていること

・純資産額     基準なし

・利益額      基準なし

出典)日本取引所グループ 上場審査基準概要(グロース市場)

 

株式上場のメリットとデメリット

株式上場のメリットとデメリット

上記のとおり、上場のためには高い実質基準と審査基準をクリアしなければなりません。
しかし高い基準をクリアした先には、会社を大きく発展させられるようないくつかのメリットを得られます。その反面、上場によって受けるデメリットも少なからず存在します。
ここからは、上場によるメリットとデメリットをみていきましょう。

株式上場のメリット

1 資金調達の可能性が拡がる

株式市場へ株式を公開すれば、一般の投資家だけでなく企業からも出資を受けられるようになります。
それだけでなく、銀行をはじめとする金融機関からの信用度が向上するため、融資審査に通過しやすくなり、融資額の大幅な増額にも期待できます。

2 会社の知名度と認知度の向上

上場を果たすことによって、会社の知名度と認知度は格段に上昇します。
これにより、非上場時に比べると取引先の新規開拓がしやすくなるほか、人材採用の面においても、優秀な新入社員を確保しやすくなるといった相乗効果を得られる可能性が高まります。

3 強度の高い社内体制の維持

本稿では解説を割愛していますが、上場を維持するためにも一定の基準を満たしたうえで監査に備えておかなければなりません。
したがって、内部監査体制の構築といった上場時に整えた強度の高い社内体制が、長期にわたって維持されることになります。

株式上場のデメリット

1 経営の自由度が低下する可能性

資金を出資した投資家や企業は株主のひとりとなり、リターンとなる利益を求めることになります。
つまり、高い利益を求める株主の意思を尊重した経営方針へと舵取りしなければならない場合もあるなど、経営者の意思決定に制限がかかる可能性があります。

2 企業買収のリスク

株式会社の経営権は、株式の過半数所有が条件となります。
上場すれば、投資家や企業は自由に株の購入ができるようになるわけですから、過半数を買収されれば、当然ながら経営権を奪われることになるわけです。
競合他社による買い占めなど形は様々ですが、上場によって企業買収のリスクが高まることには注意する必要があります。

まとめ

今回は、株式上場についての概要や非上場企業との違い、そして上場によるメリットとデメリットを解説しました。

株式上場により、多額の資金調達のほか、会社の社会的な知名度や認知度の向上といったメリットを受けられる可能性が高まります。
その一方で、不特定多数の株主が存在することにもなるため、経営の自由度が低下するだけでなく、企業そのものを買収されるリスクも生じることになります。
したがって、リスクを承知のうえであっても会社のさらなる成長を望むのであれば思い切って上場を果たすべきでしょう。
上場に至るには、厳格な各基準を満たす必要があるため容易とはいえません。
しかし、上場を目指すこと自体が会社の成長につながるはずですので、まずは実質基準を満たすべく、コンプライアンスの徹底などの内部管理体制の構築から始めてみてはいかがでしょうか。