新型コロナの感染拡大が続き、未だ世界経済が不安定な状況にある中、金融とテクノロジーを組み合わせたフィンテック事業に大きな注目が集まっています。
日本でフィンテックといえば、「QRコード決済」をはじめとするキャッシュレス決済やスマホアプリを活用したお金の管理、ブロックッチェーン技術を活用した仮想通貨や多数の支援者から資金を募るクラウドファンディングなどが挙げられがちですが、海外ではすでにAI審査を活用した融資も広く活用されており、企業や個人を問わず一般的な金融サービスとして認知されはじめています。
特にフィンテック発祥の地であるアメリカや、AI開発国としてアメリカに迫る勢いで成長を続ける中国では、フィンテック企業の躍進がめざましく、新型コロナ禍でありながらも、好調な業績をキープ、またはAIを活用したローン審査モデルの構築を行う企業の存在感が増しています。
日本では、まだまだ金融制度を大きく変えるほどの影響を与えていないフィンテックですが、そうした世界の先進国の成長例をモデルに、今後ますますの発展が期待されています。
では、現在のコロナ禍においても成長を遂げ続けている世界のフィンテック企業の現状はいかなるものなのでしょうか。
目次
フィンテック業界をリードする発祥の地アメリカ
時価総額22億ドルに達した「Upstart Holdings Inc./アップスタート」
昨年の12月26日付けのフォーブスの記事では、アメリカの「Upstart Holdings Inc./アップスタート」の株価がIPO当日に時価総額22億ドル(約2280億円)に達したと報じられました。
個人向け融資を行うシリコンバレーのフィンテック企業「Upstart(アップスタート)」の株価は、12月16日のIPO当日に47%上昇し、時価総額は22億ドル(約2280億円)に達した。同社が、非上場企業として最後の資金調達を実施した2019年4月時点の評価額は7億5000万ドルだった。
引用 フォーブスJAPAN
https://forbesjapan.com/articles/detail/38924
「アップスタート」は、元グーグル幹部の面々を中心に設立された個人向け融資(ローン)を行うフィンテック企業です。クラウドベースのAIを活用し、利用者の教育や雇用といった情報を基にして信用力を評価するモデルを展開。
これは、従来のようなクレジットスコアやクレジットカードの利用歴を重視する融資審査とは一線画し、利用者の潜在的な信用力をベースにして収入の予測によって融資判断を行うというものです。
「アップスタート」の売り上げは、昨年第2四半期では第1四半期に比べて73%減となったものの、9月までには前年比46%増となる1億4400万ドルまで売り上げを上昇。
また、他のフィンテック企業が苦戦を強いられる中、「アップスタート」の第3四半期の融資取り扱い件数は前年同月比で26%増、返済遅延も5.6%に抑えられているなど、安定した成長を続けています。
アメリカのフィンテック企業として確固たる地位を築きつつある「アップスタート」は今後、自動車ローンの提供に注力していくことを発表しており、従来の自動車ローンよりも低金利かつ効率的なモデルの拡大が期待されています。
金融機関向けAI活用審査モデルを提供する「Zest AI」
直接な融資は行っていないものの、AIを活用した金融機関向けのローン審査モデルを提供するアメリカのZest AIも、今後フィンテックの重要な存在となるであろう企業のひとつです。
Zest AIが提供するのは、利用者の信用を公平に評価するためのAIモデル。機械学習によって信用の評価を行うモデルの実装から、必要書類の提供、モデル運用までを、3年〜5年のソフトウェアライセンス契約にてトータルでサポートするというものです。
審査の公平性を重視するZest AIのAIモデルは、単に金融機関の業務効率化を図るべきものに終始するのではなく、金融機関の正しい判断を促し、社会全体に対し公平にローンの提供を展開することを目指すものです。
つまり、これまではローンの対象から除外されがちであった有色人種などに対しても、個人の「信用力」を重視した公平な審査が行われることとなり、従来では利用できなかった住宅ローンや自動車ローンを組むことが可能になるというわけです。
Zest AIのAIモデルは、すでにアメリカ国内の大手・小規模を問わず様々な金融機関をはじめヨーロッパの大手銀行にも取り入れられており、あるアメリカ国内の大手信用組合では、3ヶ月で15000人以上の新規組合員を獲得できることが判明しているとのことです。
さらには、Zest AIのAIモデルを取り入れたことによって、審査の承認率の上昇や貸し倒れの減少が見られるなど、金融機関にとってはリスクを抑えた上での公正なローンの提供を実現できているといいます。
日本では法規制の影響もあるほか、金融機関の従来からの慣習ともいえる「人的な書類確認」が重視されるためか、フィンテックを積極的に進める企業であっても、AI融資の導入には慎重な姿勢をみせる企業が多いように思えます。しかし、高い公平性を証明できたAIローン審査モデルの構築と普及が世界各国でさらに進めば、法規制の緩和と積極的な導入が進められるのではないでしょうか。
AI開発に注力しアメリカを追随する中国
アリババ傘下のフィンテック企業アント・グループ
現在、世界のフィンテック業界をリードしているのはアメリカであることに間違いありませんが、政府の強力なバックアップを背景に、AI開発分野で急速な成長を遂げている中国にも好調なフィンテック企業があります。
そのひとつがアント・グループです。
アント・グループは、今や世界屈指のIT企業へと成長したアリババグループのの傘下にあり、中国のオンライン決済サービス最大手であるアリペイを展開する金融関連会社です。
およそ10億人ともいわれるアリペイユーザーの決済データの蓄積から得られる個人や企業の信用情報を基盤にして、銀行との提携による融資事業を展開。
現在では個人向けの小口ローンである「ジエベイ」と、物品購入ローンである「ホワベイ」を中核に据えた融資事業により、今や中国最大級の融資事業者となっています。
「ジエベイ」も「ホワベイ」も、アリペイの使用頻度によってユーザーの信用度がアップしていき、その信用度がポイントとして蓄積されることによって、特別な申し込みがなくても自動的に利用が可能になるという手軽なローンサービスです。
特に「ジエベイ」は、信用ポイントが蓄積されて利用可能になれば、スマートフォンを数回操作するだけで、与信の範囲内の融資がスグに受けられるという、まさにAI融資の理想形とも呼べるサービスなのです。
アントグループの収益源は、アリペイと法人向けのITサービス、金融事業の3つですが、今や金融事業が看板サービスであるアリペイをしのいで、主たる収益源となっていることからも、いかにAI融資のニーズが高いかが分かります。
アントグループ2020年上半期の収益 ・支払いシステム 35.86% ・金融事業 63.39% ・法人向けサービス 0.75% |
引用 NEC businesss leaders squar wisdam
https://wisdom.nec.com/ja/series/tanaka/2020112501/index.html
コロナ渦であっても、高い収益をキープし続けるアント・グループですが、昨年の11月には、上海と香港で計画されていたIPOを延期すると発表。
これは、創業者であるジャックマーが中国当局の金融政策を批判する演説を行ったことや、中国当局が公表した「ネット少額ローン業務管理の暫定規定(試案)」に抵触する可能性があったためなどといわれています。
また、アント・グループはあくまでも「AIを活用したプラットフォーム企業」であるという考えをもっているものの、中国国内からは「金融事業者化」しつつあるアント・グループの姿勢を疑問視する声も上がっているなど、好調な業績の裏でフィンテック事業を展開する企業ならではの問題も抱えているようです。
ニューヨーク証券取引所に上場したルーファックス
アント・グループに次ぐフィンテック企業として存在感を増しているのが、中国の保険大手である中国平安保険の傘下にあるルーファックスです。
中心的な事業は、AIとビッグデータを基にした与信サービスであり、個人や小規模事業者向けの融資の仲介役として金融機関と提携しています。
ルーファックスのサービスは、データを自然に収集して、そこから導き出される与信能力に基づいた融資を提供するアント・グループのサービスほどの手軽さはないものの、利用者が身分証番号や学歴、過去の支払い履歴といったいくつかの情報を送信するだけでシステムが融資の可否を判断。申し込みから、わずか20分ほどで融資が受けられるという、こちらもAI融資ならではのスピーディさがウリです。
そんなルーファックスですが、昨年の10月30日にはニューヨーク証券取引所に上場。時価総額は日本のみずほフィナンシャルグループと同等の310億ドル(3兆2400億円)に達しました。
IPOでの資金調達額は23億6000万ドル。上場によって得られた豊富な資金を新たな商品開発やインフラ整備に充てるほか、世界的な事業拡大を目指す方針のようです。
フィンテック市場は未だ成長途中であるものの、これらの企業の好調な業績をみると、AIを活用した融資事業の社会的ニーズがいかに高いかがわかるのではないでしょうか。
従来の表面的な数値にとらわれることなく、利用者の潜在的な信用力をベースにした与信審査を通した融資事業は今後ますます拡大を続けることが予想されます。
今回は、新型コロナの影響をものともせず好調をキープするアメリカと中国の4つのフィンテック企業の現状をご紹介しました。
今後、フィンテックによってどのような革新的なサービスが生まれるのか。また、日本でもアメリカや中国のようにAIを活用した融資事業が拡大され、融資が社会的にもっと利用しやすい身近な金融サービスとなることにも期待したいものです。